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THノベルズ「雨の降る音」 [図書室]

背が高いことが、ずっとコンプレックスだった。

中学生のときのあだ名は「電柱」、高校生になっても男子たちはあたしを遠巻きに眺めるだけ。自分より背が高いという理由だけで、3度も振られた。

運動は好きだが、バスケや、バレーボールは絶対やりたくなかった。つまらない意地なのは、百も承知だ。

そんなコンプレックスがなくなったのは、彼のおかげだ。

「君の方が、空に近いね。」

そんな簡単な一言で、胸の奥の氷のかけらがすっと溶けていくのを感じた。
それから、私は、背筋を伸ばして歩けるようになった。

*****

出会いは、交差点だった。

彼氏から連絡があったと、お昼の約束をドタキャンされた。女の約束などあてにならないと、他人事のように思った。そして試験休みの午後の予定が、ぽっかり空いた。
さて、何をしようかな?
駅に向かう秋晴れの空に、見上げれば一筋の飛行機雲。

交差点の向こうには、同じように空を見上げる男性が一人。
同じ年くらいかしら?

目があった。

確かにこっちを見ている。
少しくせっ毛、薄いブルーの綿シャツ。初めてみる人に間違いはない。
でも視線が外せない…

顔がほてるのを隠すように、少し微笑んだ。

*****

風が吹いた。
髪が舞い上がるのを、ゆっくりと抑える、動悸を鎮めるように。

信号が青になると、後ろから押されるように一歩踏み出す。
彼との距離が少し、縮まった。

通り過ぎる時に、ついつま先立ちになる。
また目があった。
思わず笑みがこぼれる。

今日はもう、何もしない。
幸せな気分だから、このままうちに帰ろう。

*****

一週間後、同じ交差点で、同じ時間に立ってみた。
バシャバシャと大きな音を立てて、雨が降っていた。

傘をさしていたけど、お互いのことはすぐに分かった。

今度は、立ち止まったまま。彼が近付いてくるのを待っていた。

*****

いろいろな話をした。

彼の学校のこと、私の学校のコト。
彼の田舎のこと、私の家族のコト。

連絡先を交換して、また会いましょうと約束をした。

その時彼が言った。

「都会の雨は、音が大きいね。」

「雨の音?」

「都会の雨は、ザーザーと降るよね。田舎の雨は、サーサーと降る。音が優しいんだ。」

「…ふーん。」

東京育ちの私には、雨音はバシャバシャとうるさいものでしかない。
彼の言葉が優しく響くのは、優しい音に囲まれて育ったからかもしれない。
草原や、あぜ道にしみこんでいくように、心の中にそっとしみ込んでくる。

*****

あれから四年。次の休みには、彼の実家にあいさつに行く。

天気予報は雨。

彼はあの言葉を覚えているだろうか?

------------------------------------------------------------------------

こんにちは、THです。

久しぶりの連載物&珍しくハッピーエンドです。
小生の実家は、東京のはずれで池上というところです。池上本門寺というお寺のすぐわきにあります。お寺の敷地に隣接しており、自室の窓の外は雑木林でした。自室では優しく聞こえる雨の音が、駅に向かうに従い大きくなっていったのを思い出します。


さて、コメントをいつもありがとうございます。

けんずるさん、実は先週の貴兄の記事がアップされたときに、「交差点~」と「雨の~」は書きあがっていたんですね。余りにタイムリーだったので、つい「ナイスアシスト!」なんて書いてしまいました。よく考えれば「アシスト」は失礼ですよねぇ。済みませんでした。
あの場で書いてしまうと、今回の話のネタばれになってしまうので、多くは語りませんでしたが、そういうわけだったんです。

Old Yさん、ということで図らずもリクエストにお答えすることになりました(笑)。雨の一遍、いかがでしたでしょうか?

師匠、引き出しが多いとのおほめの言葉、ありがとうございます。思いつくまま指を動かしていますので、そんなに大層なものでもないですよ(笑)。
逆にいえば、猫師匠や、けんづるさんのように、一つのテーマで書けるほど深い知識がないだけという感じもします。書き散らかしているというやつですか。

また、空を見上げることが好きな人が多いなと、少しうれしくなりました。
コメントにあった南大阪線は阿倍野橋からしばらくの間は高架になっており、周りに高いビルが(少なくとも電車より高いビルが)ないため、夕方に乗るときれいな夕焼けがみられます。
東京ではビルが多いため、見ることができない景色ですね。私の通勤経路だと多摩川を越える10秒ほどが、それに近い景色でお気に入りです。

ということで、また来週。
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【寄贈本】ゴキブリはコンピュータに卵を産む(後編) -ヌコ文庫- [図書室]

車で走り出して最初に考えたのは、最近の車はほとんどコンピュータで動いているということだ。
当然、車にもLSIは沢山使われている。
京介は車を走らせながら、いきなりハンドルが勝手に動いたり、ブレーキが利かなくなったりしたらどうしようかと冷や汗をかいていた。
しかし、よく考えると、京介の車は10年以上前のポンコツで、LSIが使われているとしても、せいぜい燃料噴射装置くらいで、ABSも付いていないし、パワステも電動ではないので、普通に走る分には特に問題はないと気づいた。
そうこしているうちに、無事教授の家が見えてきた。
「ピンポーン! ピンポーン! ピンポーン!」
京介は焦って呼び鈴を押した。
「はーい」
玄関が開いて、鍋島先生の奥さんが顔を出した。
「あら、雨宮さん。 こんにちは。今日はいつもの集まりだったかしら?」
「いえ、違います。ちょっと急用で、鍋島先生おられます?」
鍋島と京介は、インターネットのあるサイトがきっかけで知り合った。で、ちょくちょくそっちの方の集まりで、顔を合わすので、奥さんはそのことを言ったのであった。
「そう。今日は珍しくいるわ。ちょっと待ってくださいね。あなたー。雨宮さんよー」
奥さんの呼びたてに、大きな腹を揺らしながら、鍋島が顔を出した。
「おぅ、雨宮君か。まぁ上がれよ」
そう言って鍋島はさっさと階段を登り自分の部屋に向かった。
「どうぞ」
奥さんがスリッパを出す。
「あ、すいません。じゃ、ちょっと失礼します」
京介はパソコンを抱えて鍋島の後に続いた。
鍋島は、いつものように書斎に入ると、パソコンの前の座り心地のよさそうな回転椅子に、どっかと腰を降ろした。
「どうしたんだい、パソコン抱えて? まさかおれに修理させようってんじゃないだろうなぁ」
鍋島は大きな顔でにっこりと笑った。
「ははは、それが当たらずとも遠からずってやつで・・・。どうも妙なんですよボクのパソコン」
「おいおい。パソコンは君の方が専門だろうが」
「そうなんですが。まぁ、何にしてもこれを見て下さい」
京介は恐る恐るパソコンのカバーを開いた。
「これなんですけど、どう思います?」
京介に言われて、鍋島もパソコンの中をのぞき込んだ。
「どう思うって・・・特に変わったところはないようだけど?」
「良く見て下さい。LSIに型番がないでしょう、ひとつも」
「ん? ふむ、確かにそういえば。なんなんだいこれ? どっかの試作CPUボードでも仕入れたの?」
鍋島はまだ、京介が何を言いたいのかがつかめていなかった。
「そうじゃないんです。もともとふつーのLSIだったはずなんですが、どういうわけか・・・。ということで、もう少しよく見て下さい。ICの頭の辺りに、何か付いてるでしょう?」
「ふむ? むむ、この髪の毛みたいなやつのことかい?」
「そうですそうです! それをみて何か思い浮かびません?」
京介は、自分の突飛な考えを口に出すのがためらわれて、なんとか鍋島の口からそれを言わせようとしていた。
「何かねぇ・・・。 私が思いつくのは昆虫の触覚ぐらいかなぁ・・・」
「そ、それですよ! それ!」
鍋島はいきなり京介が勢い込んだので、驚いて顔を上げた。
「どうしたんだ、一体?」
「あ、すみません、つい。その、触覚に見えるでしょう、それ?」
「ああ、確かに見えないこともない」
「そうでしょ! ね!」
ようやく同意を得た京介は、これまでの経緯をかい摘んで話した。
「・・・というわけでですねぇ。その結果がこれなんですよ」
「なるほど、それは確かに妙だな」
「でしょう。 で、良くみるとですね、ボクにはそれがゴキブリに見えてしかたがないんですよ」
京介は、ようやく結論にたどり着いて、ほっとした。
「ゴキブリ? ふむ、なるほど、そう言われてみれば、確かによく似ている」
「そうなんですよ。それで、きっと先生ならその辺りを調べてもらえるだろうと思って持ってきたんですよ」
「なるほど。よし、わかった。明日、研究室に持って行って調べて見よう」
「お願いします」
京介は、ようやく自分以外の人間に同意を得て、すっきりした気分で鍋島邸を後にした。


一週間後、京介のところに鍋島から電話が入った。
「はい、雨宮ですが。ああ、鍋島先生。何かわかりました、例のやつ?」
「結論から言うと、君の推測は正しかった」
鍋島は、ゆっくりと抑揚を抑えた声で言った。
「え!? ってことは、やっぱりゴキブリなんですか、あれ!?」
「そうだ。ただし、ただのゴキブリではなく、LSIとゴキブリが一つになった、ゴキブリLSIだ」
「ゴ、ゴキブリLSI!?」
京介は目眩をおぼえた。コンピュータのLSIが、よりによって京介のもっとも嫌いなゴキブリと一体化してしまったというのだ。しかし、それではコンピュータは一体どうなってしまうというのか。LSIがゴキブリになったと聞いた時点で、もうどうでもよくなってしまった京介であったが、取り敢えず質問をした。
「で、そいつは生きてるんですか?」
「そこが問題なんだ、実は。一応このゴキブリはLSIとして動作している。しかし、LSIとしての動作以外に自分の意志でも動くようなんだ。しかも、他のLSI、いやゴキブリかな、まぁどっちでもいいが、そいつらと情報を交換しながら動いているようだ」
京介は言葉が出なかった。ということはつまり、コンピュータがゴキブリの意志のままに動作するということである。
「それじゃ、このままではゴキブリにコンピュータを・・・」
と、自分で言いかけたことの大きさに思わず言葉を詰まらせた。
「そうだ。これが、君のコンピュータだけでなく、現在ありとあらゆるものに使われているLSIが全てゴキブリに変わってしまったら、日本は・・・いや、世界は大パニックだ」
事の重大さに、京介は身震いした。そんな京介に追い撃ちをかけるように鍋島は言った。
「その辺りにある電気製品を、片っ端から調べてみたが、既に全てゴキブリが載っていた」
京介は、部屋の中を恐る恐る見回して、冷や汗をかいた。コンピュータの周辺機器は言うに及ばず、エアコン、電話、ポット、テレビ、DVDプレーヤーなどなど、今やコンピュータの入っていない電気製品は存在しない。それらが全てゴキブリに乗っ取られてしまうのか。
「これは大変なことだよ、雨宮君。私はこれから、早速大学の方の各教授や、政府関係者を集めてこのことを報告するつもりだ」
「しかし、何か対策はありそうなんですか?」
「それなんだがね、この3日の間に色々調べたんだが、どうやら電源を切った状態で、電気回路に被害が及ばない方法でゴキブリを殺してしまえば、LSIとしての機能に問題はなさそうなんだ」
「そうなんですか!? それなら退治できるじゃないですか!」
鍋島の言葉に、京介は思わず叫んだが、ふと頭に浮かんだ疑問を口にした。
「でも、どうやってゴキブリを殺したんですか?」
「もちろん、殺虫剤に決まってるだろう」
鍋島は事も無げに言った。
「はぁ・・・」
「しかし、退治できることはわかったが、そのためには日本中のコンピュータやら電気製品を止めなければならないわけだから、果たしてそれが可能かどうか」
退治できるとわかってホッとした京介の顔が、そのまま引きつった。
「そうか・・・」
「なんにしても、取り敢えず今のところはそういうことだ。では、そろそろ会議が始まるので、これで失礼する」
「はぁ、なんとかよろしくお願いします」
京介は力なく電話を切った。部屋中にゴキブリがいるかと思うと、背中がゾクゾクして、居たたまれなくなった京介は、思わず外に飛び出した。


さらに3日後、ありとあらゆる報道機関を通じて、ゴキブリLSI撃滅作戦が、日本中に報じられた。Xデーは二週間後と決まった。この日、電
力会社は全ての発電装置を停止し、日本総国民の協力を得て、ありとあらゆるところでバルサン・・・そう、電気製品の隅々まで行き渡るように、この煙のゴキブリ駆除剤が選ばれた・・・を使って一気にゴキブリを退治しようという作戦であった。
二週間フル操業で増産されたバルサンは、各家庭や企業に配備された。そうして、いよいよXデーがやってきた。午前9時が開始時刻に定められていた。1時間前の午前8時、日本中の電気機器が停止した。家庭や職場で、一斉にバルサンが設置され、全ての国民が息を飲んで午前9時を待った。
京介も、もちろんその一人であった。
「ヒュルルルー・・・ドーン!」
電気が使えないため、開始の合図に選ばれた花火が響き渡った。
「くたばれ、ゴキブリLSI!」
京介は、叫ぶと同時にバルサンをセットして、表に飛び出した。辺りを見回すと、皆が家の外に飛び出してきた。やがて、家々の窓や屋根から白い煙が上がってくる。それをぼんやりと見ていた京介は、ふと目を凝らした。
「おや、なんだあれは?」
白い煙にまじって、なにやら黒っぽいものが見えたのだ。それはやがて雲のように広がり、ブーンという羽音とともに、やがて空を覆い尽くすほどになった。
「ま、まさか!?」
京介は夢中で部屋に飛び込んで、まだ煙のたちこめる中、昨日鍋島のところから帰ってきで、カバーが外されたままになってるコンピュータをのぞき込んだ。
「なんてことだ!!」
京介は茫然と立ち尽くした。コンピュータのボードの上のLSIが、一つ残らず消え去っていた。

おわり

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そんなわけで、久しぶりにSF?
あんまし気持ちのエエ話ではなかったかもやけど・・・。(^^;;)

大したオチにならんで寸魔変。m(__)m
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THノベルズ「交差点の飛行機雲」 [図書室]

昔から空を見上げるのが好きだった。

草原に横たわり、目をつぶる。
地球が動いている、ということがはっきり感じられる瞬間だ。

目を開けると青空の中に一片の雲、時には満天の星たち。
空と大地を独り占めして、大きく深呼吸。

それだけで、自分が新しくなったような気がした。

*****

都会暮らしを始めてから一番驚くことは、「人が空を見ない」ということだ。
ほとんどの人たちは、足元を見つめ足早に通り過ぎる。

決して転ばないように。

転んだって、また立ち上がればいい。そのことを知らないのだろうか?
いや、都会のアスファルトでは、転んだ時の痛みが強すぎたのだ。もう二度と転びたくないと思えるほどに。

だから都会の人々は空を見上げることをしない。
うつむき、地面を見て歩く。しかし、そこに見えるのは草木の生えないアスファルトの地面だ。

草原やあぜ道で転んでも地面は優しく受け止めてくれる。何度転んだっていいと思わせてくれる優しさがある。
でも、アスファルトは人間を拒絶する。人は自分の作ったものに拒絶されている。

そんな地面を見るのはつらかった。だから、僕は空を見上げる。コンクリートで切り取られた、箱庭のような空を。

そして、きっと彼女のあの視線に気がついたのは、僕だけだった。

*****

抜けるような青空が広がる秋の午後。
大通りをはさんだ交差点の向こう側に、彼女は立っていた。

うつむいた人たちの頭しか見えない、真っ黒な背景の中に、頭一つ高い彼女の白い顔だけが浮かび上がっていた。

彼女は僕と同じように、空を見上げほほ笑んでいる。
ふと彼女の視線の先に目を向けると、一筋の飛行機雲が空を斜めに切り取っていた。

彼女に視線を戻すと、向こうもこちらに目を向けている。
視線が絡み合う。

僕たちは、どちらともなく笑みを交わした。

風が交差点を吹き抜ける。

うつむいている人たちは、風にも気がつかずにただ立っていた。
その時、僕は彼女がとてもきれいな髪をしているのに気がついた。

風に舞い上がる長い髪を、とても優雅に手で押さえる。

彼女だけにスポットライトが当たっている。
このまま時が止まればいいと、本気でそう思った。

*****

やがて信号が変わり、人の波が僕と彼女を交差点に向かって押し流していく。
少しずつ、少しずつ、僕と彼女の距離が縮まっていく。

スクランブル交差点の複雑な流れの中で、誰もこちらを見る者はいない。
誰もが自分の目的地に向かって、わき目も振らず歩いて行く。

流されそうになる。
僕は彼女を探した。

視線が再び交差し、お互いににっこり笑うと何事もなかったように通り過ぎていく。

*****

交差点を渡り終わり振り向くと、もう彼女はどこにもいない。

空を切り取っていた飛行機雲も、滲んで消えかかっていた。

僕は何となく幸せな気分で、もうちょっと頑張ってみようかな?と思った。
次の休みには、田舎に顔を出そう。あの空に会いに行こう。

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こんにちは、THです。

先週の「息子の名前」は、ちょっと悲しいお話でした。今回はさわやかにしてみたのですが、いかがでしょうか?

けんづるさん、ナイスアシスト!
秋の空での一遍です。いかがですか?

師匠、訂正ありがとうございます。やっぱり、そちらでしたか。ディーノが愛称だとは知っていたのですが、アルフレードからディーノがつながらなかったので…。名前の愛称は特に英語圏の場合難しいですね。
新作、カフカを連想させる変身物でしょうか?スティーブンキングの映画(あれは車でしたが)のように、壊しても壊しても復活しそう…

Zさん、私も三浦牧場が好きです。書くとしたらそれでしょう!直線の車は、どうも好きになれません。
もうちょっとお時間下さいね。なかなかテーマが決まらないんです(泣)。


さて、私は東京育ちですが、母の実家が大阪でした。といっても、松原市という田舎の方ですから、裏手には畑が広がっていました。(祖父は会社員でしたが)

小学生のころはPL学園の花火大会が見えるほど、マンションなどの高い建物もなく、葛城山がよく見えていました。収穫の終わった畑の中で、弟や幼馴染と凧あげをしたのを覚えています。

NBOで話題になった「道明寺」も近くに(駅で4つほど)ありましたし、ちょうど田舎と都会の中間地点といえばいいでしょうか。

ろくに知らない世界を描くのはおこがましいですが、京都や奈良、飛鳥は大好きで、独身時代にはよく出かけました。
高野山なども何度か行きましたね、南海電車で(笑)。今度行ったときには、ぜひ、ごま豆腐を賞味させていただきたいものです。

子供がもう少し大きくなったら、一緒に空を見に行きたいと思います。

では。
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【寄贈本】ゴキブリはコンピュータに卵を産む(前編) -ヌコ文庫- [図書室]

雨宮京介が最初その異変に気がついたのは、12月初旬の寒い夜のことであった。微かな物音に目を醒ました京介が、時計を見ると、午前3時を少し過ぎていた。耳を澄ますと、どうやらブーンというファンの音のようだ。京介の寝ている足元の方から聞こえてくるようである。
首だけ起こして、部屋の角を見た。と、雰囲気からして、机の上のパソコンの電源が入っているようだ。
『変だなぁ? 確か寝る前に電源は切ったはずだけど』
そう思いながらも、しかたがないのでベッドを抜け出した。
「おお、さむ・・・」
が、その瞬間に部屋は静寂に包まれた。
「ありゃ!? おかしいなぁ?」
念のため、机のところに行って、パソコンの画面をのぞき込んだが、特に変わった様子もない。電源スイッチを確かめたが、確かに電源は切れていた。どうも納得がいかなかったが、いつまでそこに立っていてもしかたがないので、夢でも見たんだろうと、自分を納得させてもう一度ベッドに潜り込んだ。


それから3日ほど経った日の夜、京介はまたしても例の音で目が醒めた。が、前回同様京介が体を起こすと、部屋は何事もなかったように静けさを取り戻した。今度は確かに夢などではない確信があった。が、確信はあっても、証拠は何もなかった。
京介はしばらく布団の中で、色々と考えを巡らしたが、解決の糸口は見つかりそうになかった。
次の日の夜、京介は机の上にある液晶モニターを、普段と角度を変えて、ベッドの方に向けて設置した。そうして、万全の体制を整えて、ベッドに入る。目を瞑って寝たふりをしていたが、神経は耳に集中させていた。
どれくらい経っただろう、どうやらうとうとしてしまったようだ、ふと気がつくと、あの音がしていた。京介は興奮を押さえて、ゆっくりと細く目をひらいた。
やはり、あれは幻でも夢でもなかった。机の上の液晶モニターは明るく輝いて、わけのわからないデータらしきものが、次々と画面上を流れていた。
(やっぱりそうだ! ついに見つけたぞ!)
京介は心の中で叫んだ。しかし、次に何をすべきかが思い浮かばなかった。飛び起きてひっつかまえてやりたい気分だが、起きあがれば今までのように、すぐに止まってしまうに違いない。京介は、成す術もなくベッドから液晶モニターの画面を眺めていた。相変わらず、画面上にはわけのわからないデータが流れ続けていた。


気がつくと朝になっていた。京介は昨晩のことを思い出して飛び起きたが、パソコンはいつもと変わらぬ様子で、静かに机の上に鎮座している。外から見る限り、何の変哲もない使い慣れたパソコンである。
電源を入れてみる。ハードディスクがカラカラと音をたて、見慣れたWindowsの画面が立ち上がった。
「おっかしいなぁ。 一体どうしたって言うんだろう」
時計を見ると、もう10時だった。昨晩夜更かししたので、目が醒めなかったのだろう。日曜日で丁度よかったなと京介は思った。遅い朝食をとった後、京介は再びパソコンの前に座った。別に何をするという当てもなかったが、どうにも納得がいかなかった。かといって、これという良い手は見つかりそうもない。
京介はプログラマで、コンピュータのハードについても、結構な知識を持っていた。それだけに、今回の現象に付いては、とても納得のいくものではなかった。ぼんやりとパソコンの前で昨晩の事を思い出していたが、ふと思い立って、ドライバーを持ち出して、パソコンのカバーを取り外しにかかった。別に、パソコンの中に宇宙人が住み着いているとも思えなかったが、何かをしないではいられなかった。
止めてあるビスを抜いて、慣れた手付きでカバーをはずす。CPUボード、ディスクドライブ、電源、拡張ボード、得に変わった様子はない。
が、なんとなく雰囲気が妙だ。
「変だな。 何が違うんだろう?」
京介はCPUボードをのぞき込んだ。しばらく見つめていてふと気がついた。
「ありゃ? 妙だな。なんでこのLSIはひとつも型番がないんだろう?」
確かに、よく見ると、通常型番やメーカーのロゴが印刷されているはずのLSIの上面が、妙につやつやと光っており、中心に縦にほんの少しくぼんでいるのを除いて、何も見あたらなかった。
今まで何度もカバーを外したことはあるが、ちゃんと普通のLSIが入っていたはずだ。もちろん、最近CPUボードを交換した覚えもない。
「なんだぁ、おっかしいなぁ??」
京介はさらに顔を近づけた。すると、形も少し通常のLSIと違うことに気がついた。さらによく見ると、LSIの前方に、ハの字形に黒い糸のようなものが揺れている。京介は、そのてらてらと妙なつやを持ったLSIの上面をじっと見つめていたが、ごくりと唾を飲み込んで、突然のけぞった。
「げっ! こ、これは!! まるで、ゴ、ゴキブリじゃないかぁ!!!」
我ながらあまりに突飛な発想なので、とても信じ難い考えだが、どう見てもそれはゴキブリだった。前方にゆらゆら揺れている触覚。不気味に光る背中。あの気持ちの悪い足こそ銀色に輝くLSIの足になってはいるが、見れば見るほどゴキブリにそっくりだ。
「そ、そんな馬鹿な!? パソコンのLSIがゴキブリに化けちまった!!」
京介は、今にも沢山のゴキブリ・・・いやLSIが羽根を広げて飛び上がりそうな錯覚に捕らわれて、思わずカバーを閉じた。なにしろ、京介はこの世でゴキブリが一番嫌いであった。どうしてもあの、てらてらと黒光りする背中に馴染めなかった。もっとも、ゴキブリが可愛くてしかたがないというようなやつは滅多にいないであろうが・・・。
京介は表に出て叫び出したい気分だったが、自分の目で見ても信じられないほどの、あまりにも奇妙な出来事なので、とても他人に言っても信じてはもらえないだろう。しばらくどうしたものか考えていたが、友人に生物関係の大学教授がいたのを思い出して、すぐにパソコンを抱えると、車に飛び乗った。

後編につづく
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えー、2CVの時にauは5000文字しか送れないって事に気がついて、校長代理に手間をかけてしまったので今回は学習して(^_^)、続きは来週ってことでよろしく。

ちなみに、LSI(集積回路)ってのは、当然その筋の方はご存じでしょうが、普通の人は知らないと思うので、こんなもんですってのをご紹介。

http://www.infonet.co.jp/ueyama/ip/glossary/lsi.html
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%86%E7%A9%8D%E5%9B%9E%E8%B7%AF

足のいっぱいあるゴキブリみたいな形してまんねん。(^^;;)

ということで、久しぶりの車以外のお話でーす。
来週をお楽しみに。(^_^)
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THノベルズ 「息子の名前」 [図書室]

紫紺のボディが、車庫の蛍光灯を浴びてなまめかしく光っている。
ピニンファリーナのグラマラスなボディに手を置き、ゆっくりとドアを開けた。


運転席の黒い革シートに滑り込み、無粋なシートベルトをロックした。
キーを一段ひねり、チョークを引く。アクセルを踏み込むと、エンジンに火が入る。
ゆっくりとアクセルを緩め、チョークを戻す。

冷たいエンジンに命を吹き込む儀式を終えると、コンクリートに囲まれた車庫に水冷V6 2.4リッターのエンジン音がこだました。
冷え切ったエンジンの暖気を終える間、昨日までのことを思い出す。

すべてのコトは流れ作業のように進んでいき、そこに私の感情の入る隙間はなかった。
葬式は故人の死を悲しむまでの執行猶予だと、誰かが言っていた。
確かに彼が隣にいないことも、まだ現実のこととは思えない。

スイッチを押し、シャッターを上げる。
ゆっくりとクラッチをつなぐと、滑るように走りだした。

目的地などない。

どんなにせがまれても、ハンドルを握らせなかった。父がそうしたように…

「俺が引退したらな。それまでは助手席で我慢しろ。」

…苦い思い出だけが、通り過ぎる水銀灯のように浮かんでは消えていく。

*****

父が興した小さな貿易会社を継いだあの日。
社長室の机の上に、真新しいキーホルダーと古ぼけた車のキーが置いてあった。
メモには一言「好きにしろ」

その日の役員会で何を話したかなど、何も覚えていなかった。
ただ、午後の予定をすべてキャンセルし、地下の車庫に置いてあった車に飛び乗った。
あの時の興奮だけは、はっきり覚えている。ハンドルを握る時の高揚感は、今も変わることはない。

*****

二周目に入った。

18になり免許を取った彼は、書斎のドアをノックすると一生のお願いと言った。
免許を取って初めて握るハンドルは、どうしてもあの車が良いと…

二人で車庫に降りて、久しぶりに助手席に座った。
彼は真っ赤な顔で、ゆっくりとキーを回した。一度、二度と失敗し、三度目にようやくエンジンがかかった。

「今日のところはそこまでだ。やっぱりお前にはまだ早い、後は俺が引退してからだ。」
と、笑いながら言った。

彼は悔しそうな、嬉しそうな、どちらともつかない表情で、笑みを返した。

*****

3周目。

自分がそうしたように、父も車のキーだけは肌身離さず持ち歩いていた。
どんなに好きでも、車に乗る時は父と一緒でなければならなかった。

当時はシートベルトなど必要なく、(今思えば危険極まりないが)シートに横向きに座り、父のドライビングを飽くこともなく見つめていた。
箱根、九十九里、下田。父との思い出は常にこの車とともにある。

ミッドシップに短いホイールベース。背中がむずむずするような、エンジンの振動、
滑るように進むワインディング、広い視界を過ぎていく海岸線。
幼い自分には、最高に幸せな時間だった。きっと父がそうであったように…

*****

蛙の子は蛙。息子も小さいときからこの車に夢中だった。
父がそうしたように、仕事の合間を見つけては彼と一緒にドライブを繰り返した。

ある日、妻とのドライブを終えて家に帰ると、彼は部屋から出てこようとしなかっ
た。
置いて行かれたのをひがんでのことだろうと思っていたが…

次のドライブの時、彼がひそかにペンを持ちこんでいたことに気がつかなかった。
ふと眼を助手席に移すと、なんと彼はドアの内張りに名前を書いていた。

烈火のごとく怒る私に、彼は大粒の涙を流しながら言い返した。
「ここは僕の席だ!」


助手席のドアには、今も彼の名前が残っている。


それを目にした瞬間、涙があふれてきた…。
津波のような感情に打ちのめされる。

…もう彼がこの車を運転することはない…


避難帯に車を入れると、ハンドルを握りしめ、大声で泣いた…

主を失った助手席に、水銀灯が涙のように滲んで光っている。


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こんにちは、THです。

今回は「車のある風景?」第二弾。さて、この車は何でしょう。
車好きの方なら、題名でピンとくるかもしれませんね。

答えは、ディーノ246GTです。フェラーリの中でも、「フェラーリ」ではなく息
子の名前(ディーノ)を冠した車です。「知らない人はググれ」というのは簡単
ですが、それでは不親切なので、ちょっと解説しますね。(知ってる方は、読み
飛ばしてください。間違っていたら、教えてください。)

この車は、フェラーリの創始者エンツォ・フェラーリの息子であるアルフレディー
ノが病床で設計したエンジン(当初はV6の 2リッター)を使った車です。
彼は白血病で、エンジンの完成を見ることなく24歳の若さでこの世を去りました。
しかし、レーシング部門では名設計者としてF2用のエンジンなどを作っていました。
最終的にはF1用のエンジンユニットまで発展し、こちらも「ディーノユニット」
として有名です。また、アルフレディーノは代々フェラーリ家の長男が継ぐ名前
だそうです。日本だと竹本文字太夫とか、松本幸四郎、なんてところでしょうか。
(え?それは違うって?)
(ちなみにWikiでは、死因が「筋ジストロフィー」になっており、名前も「アル
フレード」となっていました、どちらが本当かはわかりません。)
小型ミッドシップで、上述したように「フェラーリ」の名前は冠していません。
(通称で「フェラーリ・ディーノ」と呼ぶ人もいますが)
また、ボンネットには通常のフェラーリエンブレム(四角の枠の中に、黄色背景
の黒抜き跳ね馬)は付いていません。ボンネットには横長の四角の中に「DINO」
となっており、フェラーリを示すものは、車体後部の銀色の跳ね馬のみです。
いずれにせよ、私のような「スーパーカー(サーキットの狼)世代」には、たま
らない特別なフェラーリです。


本文中に車名を入れようかとも思ったのですが、知らない人には結局解説が必要
だと思い、あえて外しました。そこで、ちょっと無粋な解説がつけてみました。
もちろん、知らなくても差し支えないような書き方をしたつもりですが、これら
の背景を知っていただくと、今回の題名や内容が少し違った印象になるかと思い
ます。(一粒で二度おいしい?)
前回のポルシェは裏ストーリー的な話(プレイバックパート2)でしたが、今回
は車そのものに焦点をあててみました。こんな話もたまにはいいのではない
でしょうか?
興味を持っていただいた方は、ググっていただければより詳細の記事(写真)がたくさん見つかります。

「次は跳ね馬」とのリクエストもいただいていたので、挑戦してみました。
ちょっと悲しいお話になってしまいましたが、いかがでしたでしょうか?

私は残念ながら長女(3歳6カ月)、長男(11か月)に引き継ぐような、上等なも
のは持ち合わせていません。せめて、「思い出」だけはあふれるほどに、と思っ
ています。

最後に残った「闘牛」も、そのうち考えてみたいと思います。
なお、今回は「毎日jp」の「名車グラフィティ:フェラーリ ディーノ246GT」
を一部参考にさせていただきました。

では。
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【寄贈本】車のある風景 ステージア -ヌコ文庫- [図書室]

とある土曜日の午後、東名高速を東へと走る車があった。
スノーシンクロモード付きアテーサE-TSを積んだ、日産ステージア25RS FOURだ。
FOURという名前からわかるようにこのステージアは4WD車で、RB25DE型 2.5L直列6気筒 200psのエンジンを搭載している。
アテーサE-TSというのは、路面の状況、スピード、エンジン回転数などから、4WDの前輪トルク配分を0:100~50:50に自動的に調整する、電子制御4WDコントロールシステムである。
アテーサは当時のスカイラインGT-Rにも搭載され、GT-Rでは究極の4WDコーナリングを目指した。
もちろんアテーサは、通常の4WD同様雪道でもその威力を発揮する。
10年10万kmを超えたステージアであったが、まだまだ走りは快調だ。
このステージアのハンドルを握っているのは、吉野彰54歳、ロマンスグレーのスマートなジェントルマンである。
しかし、彰はこの若さで既に孫がいる。
美人の娘と可愛い孫が彼の自慢で、世間一般の例に漏れず、彼も孫の前ではデレデレのおじいちゃんになる。
今日はインターネットで知り合った仲間達が、琵琶湖でバーベキューをやるというので、時間を遣り繰りして参加した。
その帰り道、浜松までの道のりをひた走るステージアであった。
ステージはアテーサのおかげもあり、高速道路も安定した走りをみせる。浜松から琵琶湖まで、片道240km近くある結構な距離だが、おかげで疲れは少ない。
前車のスピードが少し落ちて、彰もステージアのスピードを落とした。
隣を走るミニバンと併走する形になり、何気なくそのリアウィンドウを見た時、舌をだらりと垂らしたラブラドールの大きな顔が彰の目に飛び込んできた。
「ウェンディ・・・なわけないよな・・・」
彰は思わず呟いた。
想い出のアルバムに仕舞い込もうとしていた記憶が、また彰の脳裏に浮かび上がって来た。


11年前のとある休日、地元のブリーダーから「探しているラブラドール・レトリバーが生まれた」との連絡を受けた彰は、妻と二人でいそいそと出かけた。
彼の前にはダンボール箱に入れられた黄ラブ3匹と黒ラブ1匹がいた。
黄ラブは3匹とも元気に動き回り愛想を振りまきながら可愛い鳴き声をあげている。
よく見ると片隅に黒い物体が黄ラブ達に踏みつけられながら、遠慮がちに佇んでいる。
大きな黒目を不安そうに泳がせていた黒ラブと目があった瞬間、『僕はいいです。元気な彼らを選んで下さい』と、聞こえた気がした。
同時にブリーダーが、
「黒ラブの元気なのが1匹いたんだけど、ちょっと前に売れちゃってね。黄ラブでいいならこの元気なやつがお勧めだよ。この黒は弱そうだからやめた方がいいよ」
『だったらうちで飼ってやるよ! 元気な子に育ててやるよ!! こんなに優しい目をしてるの見たことないぞ!!!』
と言いかけた時、
「この黒ラブがいい! 優しそうだし!」
と先に妻が叫んだ。
ブリーダーは不思議そうな顔で二人を見たが、彰にはそれが運命の出逢いだと思えた。
黒ラブを乗せての帰り道、彰はステージアのハンドルを握っていたが、その運転は『いまだかつてないほどジェントルだった』と妻は未だに言う。
最初、メロン2個入り用の箱に入っていた黒ラブは、ウェンディと名付けられ、その後34kgにまで成長することになる。
ウェンディは先天的に股関節形成不全で、後ろ足の脚力は他の犬に比べて弱かったが、日常生活を送るには大きな支障はなかった。
もちろん、ラブラドールは痛みに強く我慢強い性格で、大概の痛みはアピールせずに我慢してしまうらしいので、確認した訳ではないのだが。
それでも、樹脂製の犬小屋を噛み砕いて飲み込んでしまい、幽門が先天的に狭かったため、樹脂片が痞え開腹手術したり、11年の間にはいろいろなことがあった。
犬と人間、確かに共通言語はないが、愛情を持って接すれば通じ合えると彰は今も信じている。
ウェンディと過した日々は彰にとってかけがえのないものであった。
そのウェンディが突然旅立ったのは、夕方の散歩の後だった。
異変に気づいた彼の妻がすぐに動物病院に連れて行ったが、そのまま手術となり、彰が病院に駆けつけたときは既に手術中であった。
それからすぐに手術室に呼ばれたが、その時は既に心臓マッサージ中で、マッサージを止めるとモニターからは単音の長い無機質な音が部屋に響いた。
11才と357日の生涯。後20年生きろよと毎日彼に言い聞かせていた彰を残して、ウェンディは旅立った。
病院からの帰り、雨の日も木枯らしが吹く日も、焼けた舗道が夕暮れとともに涼しさを取り戻す夏の日も、彼と共に歩いた散歩道を、妻と二人ステージアで走るうち、雨でもないのに、彰はフロントグラス越しに見る景色が滲んで見えなくなっていた。


いつの間にか、前を走る車のテールが滲んでいた。その滲んだテールランプが赤く点灯して、彰は慌ててブレーキを踏む。
「おっと。いけないいけない・・・」
高速の出口が近づいていた。
零れた涙がシャツを濡らしている事にもその時気づいた。
傾いた陽に、オレンジに染まっていく浜名湖を右手に見ながら、彰はステージアの速度を落とす。
しばらく後、自宅の車庫にステージア止めた彰の目に、まあるい笑顔が飛び込んできた。
娘といっしょに彼を迎えに出た孫の笑顔だ。
旅立ったウェンディの代わりになるわけではないが、孫の笑顔は彰を癒やしてくれる。
「お父さん、ちょっとそこのスーパーまで乗せてってくれない?」
「よーし。じぃじとドライブ行こう!」
運転席から彰は孫に話しかける。顔がすっかり崩れている。
「じーじー」
娘と孫を乗せて、再び車庫を出た彰は、ステージアをゆっくりと走らせる。
「相変わらずねぇ」
娘が笑いながら言う。
「何が?」
「この子を乗せてる時ってお父さん、いまだかつてないほどジェントルじゃない、運転が」
『いまだかつてないほどジェントル・・・』
再び、初めてウェンディを乗せた時の妻の言葉が、彰の胸にこみ上げてくる。
しかし、それを飲み込むように彰は少し潤みかけた目を細めて応えた。
「そんなことはないさ。オレの運転はいつでもジェントルだよ」
「あはは・・・」
「はは・・・」
「じーじー」
ウェンディと過ごした楽しかった日々と、まあるい笑顔を乗せて、ステージアはそろりそろりと夕暮れの街に消えていった。

おわり

--------------------

この物語はフィクションです。
実在する人物、団体等には一切関係ありません。


この物語は、アテーサ付きのステージアをカッコ良く乗りこなし、ダンディでジェントルなロマンスグレーなのに、孫にはメロメロのおるでぃと、インディ君に捧げます。

そんなわけで、裏麺シリーズ、今回で一旦お休みします。
はい、単にネタ切れなだけです。(^^;;)
さすがに今回で連載19本目、素人にはそろそろ限界かってとこで、とりあえず、しばらく裏麺は出てきませんが、もう少し続く・・・と思います。(^_^)
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THノベルズ「George’s Bar」 [図書室]

やっと、夜が長くなってきた。
この季節は人恋しさが募る。

土曜日といっても、家にだれが来るわけでもない。
一人で飲むにはさみしすぎる、かといって繁華街ではわずらわしい。

「マスターは元気かな?久しぶりに顔を出してみようか?」

クローゼットから濃紺のジャケットを取り出し、家を出た。

白銀高輪駅を降り、プラチナ通りに背を向け15分ほど歩いた裏通り。
おや、雨が降ってきた。
まあ、このくらいなら問題ないだろう、紳士は決して走らないものだ。

オンライン通りに入って、喫茶店の隣。アメリカンスタイルのバーが、今夜の目的地だ。
ガラスのドアの向こうでは、マスターがグラスを磨いている。

「おや、いらっしゃい。久しぶりですね。」

マスターはいつも笑顔で迎えてくれる。

「やあ、久しぶり。元気だった?」

「ええ、おかげ様で。」

「そりゃよかった。メーカーズマークをロックでもらえるかな?」

「はい、よろこんで。」

どこかの居酒屋ではない、マスターはゆっくりと発音する。心地のいいテノールだ。

「雨ですか?」
オールドファッションを滑らしながら、マスターが訪ねてくる。

「まあ、小雨だよ。心配ない」

オールドファッションの中で、ロックアイスとコハク色の液体が輝く。
そう、あの日もこんな雨だった…


…二人は似すぎていたんだろう。

初めての女ではないし、最後の女でもない。
しかし、別れた今も一番大きな場所を占めていることは否定できない。

使い古されたセリフだが、二人が出会うには若すぎたのかもしれない。
俺は事業を立ち上げたばかりで仕事が面白くて仕方なかったし、仕事以外のことは考えられなかった。
彼女も転職したばかりで、新しい職場で自分の居場所を作るのに一所懸命だった。

自分の都合を押しつけるばかりで、すれ違いだけの日々が続いた。
そして、彼女は部屋を出て行った…

そう、今ならもう少しましなことも言えただろう…

彼女は、その後業界でも有名なファンドマネージャーとして活躍している。
先日も経済誌のサイトでその名前を見つけた。

おせっかいな風のうわさでは、まだ一人だということだ。

会社は小さいながらも、評判の良いコンサルティング会社として業界での認知度も上がった。昨年の金融危機の影響もあって、顧客が顧客を呼ぶいい循環の中にある。

「あれから7年か…」

つい口に出してしまったんだろう、マスターが声をかけてくる。

「お代りはいかがですか?」

「そうだね、ブランドンはあるかな?」

「はい、かしこまりました。 …雨が強くなってきたようですね。」

「ん? ああ、客が俺一人じゃ、マスターも張り合いがないね。」

「いえ、こんな天気です。 ごゆっくりどうぞ。」


なぜ、あんなことを思い出したのかな…
雨のせいか。


店の外を車のライトが過ぎて行った。
マスターのグラスを磨く手が止まり、右の眉毛が少し上がった。

ガラスの扉を開ける音がする。
そう、もう誰が来たかはわかっていた。

俺は、隣に滑り込んできた彼女に声をかける。

「元気か?」

「ええ、あなたは?」

「今はね。」

マスターが、BGMのボリュームを少し上げた。FourPlayだ。リーリトナーのギターに、フィルコリンズのボーカルが心地いい。

「マスター、これ。」

スツールから降りた俺は、昔のように、二人分のジャケットをマスターに渡した。
長い夜は、始まったばかりだ。


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こんばんは、THです。

今週は、コメントに書いたように厳しいかな?とも思いましたが、なんとか穴を開けずに済みました。

さて、今回は裏シリーズです、何の歌かわかりました?
ヒントは題名と出だし、結末です。

Fourplayですが、私の大好きなグループです。知らない方はぜひ聞いてみてください。
作中に登場したのは、3作目「Elixir」の「Why Can’t Wait ‘Til Morning」です。スムースジャズの入門編(にしては豪華メンバーですが)にしても、入りやすいグループ&曲です。

先週もたくさんのコメントありがとうございました。
中には珍客もいたようですが(苦笑)。



ということで、今週は「TAXI」の裏ストーリーでした。
またよろしくお願いします。
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【寄贈本】車のある風景 スズキ Kei -ヌコ文庫- [図書室]

三重県桑名市の県道を、今年で11年目を迎えるスズキKeiが、年式故にギコギコとちょっと騒がしい音を立てて走っていた。
発売11年目を迎えるKeiだが、まだフルモデルチェンジされていない息の長い車で、フロントマスクは2000年に少し変更されたが、基本的なスタイルはそのままである。
今や普通車でも大流行のクロスオーバーSUVだが、Keiは軽自動車では初のクロスオーバーSUVで、本格的なオフローダーであるジムニーと乗用車であるワゴンRの中間的なところを狙って造られた車である。
大径タイヤに車高を上げてオフロード走破姓を高めたRV的なスタイルだが、乗用車的な内装や装備、スタイルなどをうまく組み合わせた、街乗りクロカンだ。
この98年式の初代Keiを運転しているのは、桑名市にある旅行会社に勤めている、鶴田健治39歳。
週末の金曜日、仕事を終えての帰り道。いつものように健治はスポーツジムの駐車場に車を入れる。
週に何回か、ここで汗を流すのが健治の日課になっている。
ロッカールームで運動着に着替える。シャツの下は健治のトレードマークとなっているタンクトップである。
理由はわからないが、健治は年中タンクトップを着ている。
ロッカールームを出た健治は早速ロードマシンをセットして走り出す。
走りながら、今日の会社での出来事を思い出していた。
大卒新人のタカマツとの会話だ。

「エエか、10,000円税別の旅館は、消費税込みで10,500円やろ。それに温泉地で入湯税150円足して10,650円や」
「え・・・?」
タカマツが固まる。
「あぁ。入湯税ってわからんよな?」
「いえ」
「じゃあ、何や? 他に固まることってあるか?」
「消費税込みで10,500円になるのが、ちょっと・・・」
健治は困惑したタカマツの顔を見ながら、優しく言う。
「なんでや? 1万円に1.05かけてみいや」
「1.05ってなんですか?」
「消費税の税率かけるんやないか」
「え・・・なんで1.05なんですか?」
今度は健治が固まる。
「タカマツ・・・おまえ消費税って何パーセントかわかるよな?」
「・・・」
どうやらタカマツは考えているようだ。たっぷり30秒待つ。
「ひょっとしてわからんのか?」
「・・・3%すか?」
「・・・5%ぢゃ! ぼけぇ!!」
ついに我慢の緒が切れた健治は思わず叫んでしまう。
(アカン、10数えて落ち着け。俺)
健治は心の中で呟く。
「ふー・・・で、消費税5%やから、1.05かけるんや。わかったやろ」
「え? なんで1.05なんですか?」
ジムで鍛えた右腕の握り拳がプルプルと震え出しそうになるのをようやく押さえて、健治は答える。
「消費税5%やからやんけ」
「5%なら0.05かけるんですよね?」
健治は、果てしなく続く禅問答のようなやり取りに、いささか疲れを覚えながら、根気よく説明する。
「だぁかぁらぁ。消費税額は5%やから、税額だけ出すんやったらそれでええけど、総額出すんやったら1.05かけるやんけ」
「はぁ・・・1万円と、1万円に5%かけたのを足せばいいんですよね?」
「その手間をいっぺんで済ますように1.05かけるんや内科医!!」
既に切れそうになっている健治の頭の中で漢字変換が支障をきたしている。
「はぁ・・・」
「なんや。納得でけへんのかい?」
「そんな計算したことないもので」
ここで健治の心は折れた。
「もうエエわ。今日は帰るわ」
「そうっすか。お疲れっす」
健治はがっくり肩を落として会社を出た。
(あー、苦労が多いなぁ、俺。あいつを教育していく自信ないわ、ほんまに)
トレーニングで体は鍛えられていたが、心は弱気な健治であった。


翌日の土曜日、健治は朝早くKeiに乗って家を出た。
今日は琵琶湖で気の合う友人達とバーベキューをする予定になっている。
この友人達とはインターネットで知り合ったのだが、とても気の合う仲間で、先月は同じ仲間達と、高野山で胡麻豆腐を食べてきた。
昨日はタカマツのあまりのボケぶりに切れてしまったが、普段の健治は面倒見が良く、色々とよく気がつく真面目で優しい男である。
仲間内でも、気配りの健治と言われて皆に慕われている。
健治は琵琶湖に向かう前に、とあるマンションに寄り道する。
駐車場にKeiを駐めると、まだ二十代とおぼしき艶っぽい女性が、幼児の手を引いて出てくる。
この親子も健治の友人で、今日は一緒に琵琶湖に行くことになっている。
何かと機会があるたびに健治はこの親子と行動を共にしており、娘もすっかり健治に懐いている。
というか、健治はすっかり娘のオモチャになっている。
実は健治、この母娘に好意を抱いている。
「おはよー」
健治が言うと、
「おはよー! つる!」
と娘が応える。
娘は、いつも健治の事を「つる」と呼んでいる。
3人を乗せたKeiは、琵琶湖へと向かった。
娘はいつものとおり大はしゃぎで、ワイワイと騒いでいるうちに琵琶湖に到着した。
琵琶湖では、既にランクルの仲良し一家とアルファ乗りのイケメンがバーベキューの用意を整えていた。
さらに、いつものショートパンツが似合う娘や、ゴルフ焼けの笑顔がいい女性、ジモピーで長身のコペン乗りなどに加えて、中部から来た女装が似合いそうな可愛い顔をした青年、ずっとにこにこしているラッパ吹きや、50代なのに既に孫がいる、浜松からステージアで駆けつけたスマートなロマンスグレー男性など、多彩なメンバーが揃っていた。
飲んで、食べて、楽しい時を過ごした健治は、来た時と同じように、母娘をKeiに乗せて、日の暮れた琵琶湖を後にした。
高速を東へと向かううちに、後席で騒いでいた娘は眠りについたようで、Keiのエンジン音だけが響いていた。
高速を降りて、母娘のマンションが近づいてくる。
「実は・・・」
黙り込んでいた健治は、思い切った様子で切り出した。
「えーっと・・・あの・・・」
言い淀んでいると、突然後席から声が上がる。
「つるー!」
「うわ!」
驚いて後席を見ると、娘はまだ寝ているようだ。
「なんや、寝言か・・・ははは」
そうこうしているうちにマンションに着いてしまう。
「何か言いかけてなかった?」
女性が尋ねる。
「え、ああ・・・いや、ほな、また遊びに行こ」
「そう。うん、楽しかったね、今日は。ありがとう」
女性は娘を抱いて手を振った。
「じゃ、おやすみー」
「おやすみー」
健治もKeiを走らせながら窓から手を振る。
マンションが見えなくなって、県道へ出たところで携帯電話が鳴った。
健治は慌てて道路脇に車を止めて、相手も確認せずに電話に出る。
「もしもし!?」
だが、電話の声は健治が期待したものではなかった。
「もしもしー。鶴田先輩っすかぁ?」
「な、なんや。タカマツか・・・」
「なんすかそれ。なんか期待はずれだったっすか?」
気の抜けた健治の声に、タカマツが不思議そうに応える。
「いや、何でもないって。それより何やねん、休みの日に」
「そうそう、わかりましたよ先輩、昨日の消費税入れて10,500円になるの!」
タカマツは叫んだ。
「わざわざそんなこと言うために電話したんかい!?」
健治はガックリと肩を落としながら応える。
「そうですよー! 昨夜からずっと考えてて、やっとわかったっすよ。いやー、すっきりしました!」
「そうか、良かったなぁ。ようやった・・・なわけないやろ! どんだけ暇やねん、タカマツー!」
叫んだ拍子にグラグラと揺れたKeiの車体がギコギコと音を立て、まるで笑い声のように夜空に響いた。

おわり

--------------------------------

この物語はフィクションです。
実在する人物、団体等には一切関係ありません。

今回は誰でも知ってる超有名な人気者がモデルです。
ということで、この物語は、老若男女、ちびっ子にも大人気、時には熱く人生を語り、でもどこか抜けてる憎めない性格、タンクトップでマッチョだけど心優しく、自在にづる語を操る、愛すべきみんなのづるに捧げます。(^_^)/
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THノベルズ「みんなの木」 [図書室]

小高い丘の上に、小さな芽がぴょこんと顔を出しました。
種がどこから来たのか、誰も知りません。

でも、小さな芽は動物に食べられることもなく、病気になることもなく
すくすくと育ち、何年かすると立派な若木になりました。
*****

若木は秋になると、小さな実をつけます。
最初に若木に気がついたのは、小鳥たちでした。
小鳥は若木の実をついばみ、羽を休め、飛んで行きました。
若木は、小鳥たちが巣を作るほど大きくなかったからです。

何年かすると、若木は立派な木に育ちました。
*****

立派になった木には、小鳥たちが巣を作るようになりました。
秋には小さな実をたくさんつけたので、小鳥たちでは食べきれません。
落ちてくる実を狙って、キツネやリスも来るようになりました。

木の根もとでは、キツネが巣を作り子狐が生まれました。
*****

丘のふもとには村ができました。
村人たちは、仕事の合間に丘に登ってきます。
木陰で昼寝をしたり、将来の夢を語り合いました。
大きく育った木を、みんな大切にしていました。

丘の上の木は、みんなの木になりました。
*****

村の子供たちは、木に登ったり実をとったりして遊びます。
ある日、男の子たちが集まって秘密基地を作りました。
大人たちは、男の子たちに気づかれないように秘密基地を直しています。
落ちたら危ないからね。

村の人たちは、みんなの木が大好きでした。
*****

ふもとの村は、人が集まってきて町になりました。
新しく町に来た人たちは、丘の上に家を作りたいと思います。
村の人たちは、みんな反対しました。

みんなの木の周りでは、町の子も村の子も一緒に遊んでいます。
*****

子供たちはみんな大きな木と秘密基地が大好きでした。
町の子も、村の子も関係ありません。
みんなの木は、大きな木だったので子供たち全員が遊んでもびくともしません。

でも、ある日町の子が秘密基地から落ちて、けがをしてしまいました。
*****

町の人たちは、怒りました。
「秘密基地がいけないんだ!木を切ってしまえ!」
村の人たちも、怒りました。
「町の子供が悪いんだ!一緒に遊ぶな!」

子供たちは一緒に遊べなくなって、悲しくなりました。
*****

そのころには、町の人たちのほうがたくさんいました。
村の人たちは反対しましたが、みんなの木は切り倒されることになりました。


仲良く遊んだ秘密基地は壊されてしまいました。
村の子供は泣きました。
町の子供も泣きました。
村のお年寄りも、村の大人たちもみんな泣きました。
*****

木が切り倒される前の日に、村の人たちが集まってきました。
村の子供たちも集まってきました。
町の子供たちも集まってきました。

みんなでお弁当を食べ、お酒を飲んで楽しく過ごしました。
*****

みんなの木にお別れを言いました。
「ありがとう。」
「楽しかったよ。」

そして、けがをした子もやってきました。
「ごめんなさい、ごめんなさい。」
誰もその子を責めません。
けがをした子が悪くないことは、みんな分かっていたのです。
*****

みんなの木は、なくなりました。
秘密基地も、小鳥の巣も、みんななくなってしまいました。

丘の上には、切り株と広場だけが残りました。
*****

何年かして、立派な若者が丘の上の公園にやってきました。
「もう一度、ここに木を植えよう。」
昔けがをした子供が、大きな声で言いました。

「その必要はないよ。」
周りの若者たちが言いました。
一緒に遊んだ、村の子供たちです。

指さす方を見ると、みんなの木の切り株からは、若木が生えていました。
*****

何年か、何十年かすると、若者たちはおじいさんになります。
何年か、何十年かすると、みんなの木の周りで子供たちが遊ぶでしょう。

------------------------------------------------------------------


こんにちは、THです。

ちょっと毛色を変えて、童話を考えてみました。
知っている人もいるかと思いますが、「ちいさいおうち」という童話に感動したもので。
だれか、絵をつけてくれませんかね(笑)。

シルバーウィークを忘れて、転送していなかったため掲載が遅れました。
内緒ですが、会社のPCで作成しているもので…

「ちいさいおうち」ですが、ご存じない方がいらっしゃいましたら、ぜひご一読ください。大人の鑑賞にも十分ないい絵本です。

さて、前回も多くのコメントありがとうございます。
猫師匠、勝手に借用済みませんでした。

跳ね馬や闘牛については、また考えてみますね。

そうそう、小生至って平凡なサラリーマンですので、ポルシェ何ぞとてもとても…
ほら、いうじゃないですか、「色男、金と力はなかりけり」…

最後に、「飲酒運転」の件、おっしゃるとおりですね。
個人的には「飲酒運転」を取り締まる法律は軽すぎると思っています。
が、それはそれとして置いておかなければ、いわゆる「ミステリ」は成り立たなくなってしまいますから難しいところです。

ということで、遅くなりましたが感想などお寄せいただければ幸いです。
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【寄贈本】車のある風景 アウディ A4アバント -ヌコ文庫- [図書室]

下界ではまだまだ残暑が厳しく、暑い日が続いていたが、ここ高野山では既に秋の気配が漂っていた。
まだ9月ではあるが、最高気温でさえ都会の最低気温にも達していない。
夜になってぐっと冷え込んだ九十九折りの道を、流麗なスタイルのワゴンが軽快にパスして行く。
アウディA4アバントだ。
アバントというのはアウディが造るステーションワゴンのことで、1970年代に誕生した100シリーズで、このアバントという名が誕生した。
もっとも、このときは5ドア車だったのだが。後にこの5ドアモデルが進化し、ワゴンになったという流れである。
アウディの考え方は「アバントは単なるワゴンではなく、ワゴン以上の価値のあるクルマ」というものである。
ワゴンであるがセダンと同じ全長なのがA4アバントの特徴で、荷室の広さよりもボディスタイルを重視した結果だ。
アウディと言えば車そのものよりクワトロを思い浮かべる人も多いが、A4アバントは洗練されたスタイルのアウディ車の中でも、最もセクシーなワゴンと呼べる。
そのA4アバントを操っているのは、濱田祥吾。
彼は、高野山で胡麻豆腐を作っている。三十三歳の若さではあるが、創業百余年という老舗胡麻豆腐屋の店主である。
高野山では有名な胡麻豆腐ではあるが、彼の作る胡麻豆腐は、その中でも絶品の誉れが高い。
癖のない味、プリンのようなまったりとした濃厚な舌触り、和三盆で食べても、わさび醤油で食べても、思わず誰もが「うーむ、これは美味い!」と唸ってしまう逸品だ。
祥吾は、今日友人と会うために仕事の後山を下り、夕食をすませて再び山頂の自宅に帰るところであった。
ほとんど車の通らなくなった山道を、A4アバントのヘッドライトが切り取っていく。
と、三つほど先のカーブに車のテールランプが光っているのが見えた。
スピードを落として近づいていくと、止まっている車の横に、髪の長い女性らしきシルエットが浮かんできた。
車は赤いスイフトだ。
車を止めた祥吾は、A4アバントを降りてその女性に声をかけた。
「どうかしました?」
「ええ・・・何かにぶつかったみたいで」
「ちょっと見ましょうか?」
「すみません」
グローブボックスからハンドライトを引っ張り出して、車の前方にまわってみる。
フロント部分をボンネットから順に下へ調べていくと、バンパーが左下で割れているのを発見した。
「ここ、元々割れてました?」
割れた部分をライトで照らしながら女性に尋ねる。
「いえ、何もなってなかったと思います」
「そうですか。じゃぁ、確かに何か当たったようですね。ちょっと待ってください」
祥吾はそういって、車の周りを調べてみた。
ほどなく、左側の草むらにそれを発見した。
「ああ、タヌキですね。これをはねたようですね」
「タヌキ・・・ですか?」
女性は、大きな目を見開いて言った。
「そうです。こっちは初めてですか? この辺りは結構多いんですよ。バンパーが割れてますが、特に走るのに支障はないでしょう。タヌキは可哀想なことをしましたが、不可抗力ですので仕方がありません。夜道に飛び出してきたタヌキを避けるのは簡単ではありませんからね」
心配そうな女性を安心させようと、祥吾は笑顔で説明した。
「わかりました。色々ありがとうございます」
「いえ。それで、上まで行くんですか?」
「はい。もう少し早く来る予定だったんですが、ちょっと遅くなってしまって」
「そうですか。じゃ、僕が先に走りましょう。ゆっくり行くので後をついてきてください。行き先はわかってます? じゃ、僕は適当なところで帰り道に逸れますので、後は適当に行ってください。」
「すみません、ご面倒をかけて。よろしくお願いします」
女性はぺこりと頭を下げた。
暗いのであまりはっきりと顔は見えなかったが、長い髪が印象的だった。
祥吾はA4アバントに乗り込んで女性の車の前に出て、後を確かめながらゆっくりと坂を上り始めた。

翌日、土曜日の午後。祥吾の仲間達があちこちから店に集まっていた。
インターネットで知り合った仲間達で、機会があると祥吾のところへも寄ってくれる。
いつもの関西メンバーに加え、今回は関東からも3人が参加していた。
神奈川県から車でやってきたダイバーの友人、同じく東京から一人で遊びにやってきた、グラマーで長身だが癒し系の美女と、飛行機で関空へ降り立ったまだ二十代前半の愉快な若者の3人だ。
そこへまた車が1台やってきた。スズキのKeiだ。
Keiの運転席から三十代後半のマッチョな男性、助手席から二十代後半の女性、そして後席からは幼児が降りてくる。
仲良く手をつないでまるで親子のようだが、マッチョ男性と母娘は親子ではない。
みんなでワイワイと胡麻豆腐をつついて、メンバーはまた次の目的地へと流れていった。
そうこうしているうちに午後3時、今日も胡麻豆腐は既に売り切れだ。
実は、この日雑誌の取材も来ることになっていた。
女性向けのグルメ系雑誌で、そこで胡麻豆腐を紹介したいので、取材させて欲しいということであった。
奥の部屋で一息ついていると、従業員が祥吾を呼びに来た。
「あの、雑誌の方が来られてます」
「ああ、今行きます」
店に出ると髪をアップにまとめたスーツ姿の女性が立っていた。
「こんにちは。濱田です」
「え? 濱田さん・・・胡麻豆腐屋のご主人ということで、もっと年配の方を想像してました。お若いんですねぇ・・・」
そこで、祥吾の顔をじっくりと見た女性が驚いたように言葉を切った。
「あ、昨夜の・・・」
言われて祥吾も女性の顔をまじまじと見た。昨夜は暗かったのと、GパンにTシャツというカジュアルな出で立ちで、髪を下ろしていたこともあり、目の前の女性が昨夜のタヌキ事件の彼女だと、気づくのに時間がかかった。
「ああ・・・あなたでしたか」
「昨夜はお世話になりました」
「いえいえ。特に何もしてません」
「ほんとに助かりました。あ、改めてですが、私こういうものです。今日はよろしくお願いします」
受け取った名刺には、『月刊スイーツピア 永澤 良美』とあった。
「はい、よろしくお願いします」
話を聞くと、今日は朝から奥の院に始まって、取材の時間まで高野山を散策していたそうだ。
その後、取材は順調に進み、日が暮れる前に永澤良美は胡麻豆腐のお土産を手に、店を出た。
帰りがけ、店の裏手に駐めてあるA4アバントを見つけた良美は、嬉しそうに祥吾を振り返った。
「あ、これ昨夜の車ですね。なんて言う車ですか?」
「ああ。A4アバントって言うんだ。メーカーはアウディだけどね」
「へー、A4アバントですか。格好いいですね。そうだ、車をバックに1枚撮らせてもらえませんか」
そう言って、良美はもう一度カメラを取り出した。
「いいですよ」
祥吾はA4の前に立つ。
良美は、アングルを変えて何枚か写した。
「ありがとうございました。いい記事が書けそうです」
「はい。よろしくお願いします」
「では、失礼します」
良美は頭を下げてバンパーの割れたスイフトに乗り込んで、陽の傾いてきた高野山の街並みに消えていった。


三ヶ月後、祥吾はA4アバントでいつものように九十九折りを走っていた。
ただ、いつもと違うのは、A4アバントの助手席に良美が乗っているということだ。
あの後、取材記事の載った雑誌が刷り上がると、すぐにそれを持って良美がやってきた。
お礼を兼ねてということだったが、その後良美はちょくちょく祥吾の店にやってくるようになり、やがて二人はつき合い始めた。
今日もデートの最中だった。
「しかし、あの時は驚いたな」
「タヌキ?」
「違うよ。店の記事の載った雑誌だよ」
「そう」
「だって、グルメ誌なのに、肝心の胡麻豆腐より僕とA4アバントの写真の方が大きいんだもん」
祥吾はA4アバントのハンドルを忙しく切りながら笑った。
「だって・・・カッコ良かったんだもん」
「それって、僕が? A4アバントが?」
「ふふ。さぁ、どっちかしら」
「なんだそれー」
二人の笑顔を乗せて、その流麗なボディをくねらせるように次々とコーナーをパスしていくA4アバントの上に、白い雪が舞い始めていた。

おわり

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この物語はフィクションです。
実在する人物、団体等には一切関係ありません。

と、お決まりの但し書きをして、ただし、関係ありませんが、モデルはいます。
え、そんなこた毎回言わんでもわかってる?
はい、お後がよろしいようで・・・。

そんなわけで、この物語は、とってもシャイな好青年で、毎日超美味しい胡麻豆腐作りに精を出し、カッコ良くA4アバントを乗りこなす、はまちゃんに捧げます。(^_^)
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