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【寄贈本】車のある風景 スズキ Kei -ヌコ文庫- [図書室]

三重県桑名市の県道を、今年で11年目を迎えるスズキKeiが、年式故にギコギコとちょっと騒がしい音を立てて走っていた。
発売11年目を迎えるKeiだが、まだフルモデルチェンジされていない息の長い車で、フロントマスクは2000年に少し変更されたが、基本的なスタイルはそのままである。
今や普通車でも大流行のクロスオーバーSUVだが、Keiは軽自動車では初のクロスオーバーSUVで、本格的なオフローダーであるジムニーと乗用車であるワゴンRの中間的なところを狙って造られた車である。
大径タイヤに車高を上げてオフロード走破姓を高めたRV的なスタイルだが、乗用車的な内装や装備、スタイルなどをうまく組み合わせた、街乗りクロカンだ。
この98年式の初代Keiを運転しているのは、桑名市にある旅行会社に勤めている、鶴田健治39歳。
週末の金曜日、仕事を終えての帰り道。いつものように健治はスポーツジムの駐車場に車を入れる。
週に何回か、ここで汗を流すのが健治の日課になっている。
ロッカールームで運動着に着替える。シャツの下は健治のトレードマークとなっているタンクトップである。
理由はわからないが、健治は年中タンクトップを着ている。
ロッカールームを出た健治は早速ロードマシンをセットして走り出す。
走りながら、今日の会社での出来事を思い出していた。
大卒新人のタカマツとの会話だ。

「エエか、10,000円税別の旅館は、消費税込みで10,500円やろ。それに温泉地で入湯税150円足して10,650円や」
「え・・・?」
タカマツが固まる。
「あぁ。入湯税ってわからんよな?」
「いえ」
「じゃあ、何や? 他に固まることってあるか?」
「消費税込みで10,500円になるのが、ちょっと・・・」
健治は困惑したタカマツの顔を見ながら、優しく言う。
「なんでや? 1万円に1.05かけてみいや」
「1.05ってなんですか?」
「消費税の税率かけるんやないか」
「え・・・なんで1.05なんですか?」
今度は健治が固まる。
「タカマツ・・・おまえ消費税って何パーセントかわかるよな?」
「・・・」
どうやらタカマツは考えているようだ。たっぷり30秒待つ。
「ひょっとしてわからんのか?」
「・・・3%すか?」
「・・・5%ぢゃ! ぼけぇ!!」
ついに我慢の緒が切れた健治は思わず叫んでしまう。
(アカン、10数えて落ち着け。俺)
健治は心の中で呟く。
「ふー・・・で、消費税5%やから、1.05かけるんや。わかったやろ」
「え? なんで1.05なんですか?」
ジムで鍛えた右腕の握り拳がプルプルと震え出しそうになるのをようやく押さえて、健治は答える。
「消費税5%やからやんけ」
「5%なら0.05かけるんですよね?」
健治は、果てしなく続く禅問答のようなやり取りに、いささか疲れを覚えながら、根気よく説明する。
「だぁかぁらぁ。消費税額は5%やから、税額だけ出すんやったらそれでええけど、総額出すんやったら1.05かけるやんけ」
「はぁ・・・1万円と、1万円に5%かけたのを足せばいいんですよね?」
「その手間をいっぺんで済ますように1.05かけるんや内科医!!」
既に切れそうになっている健治の頭の中で漢字変換が支障をきたしている。
「はぁ・・・」
「なんや。納得でけへんのかい?」
「そんな計算したことないもので」
ここで健治の心は折れた。
「もうエエわ。今日は帰るわ」
「そうっすか。お疲れっす」
健治はがっくり肩を落として会社を出た。
(あー、苦労が多いなぁ、俺。あいつを教育していく自信ないわ、ほんまに)
トレーニングで体は鍛えられていたが、心は弱気な健治であった。


翌日の土曜日、健治は朝早くKeiに乗って家を出た。
今日は琵琶湖で気の合う友人達とバーベキューをする予定になっている。
この友人達とはインターネットで知り合ったのだが、とても気の合う仲間で、先月は同じ仲間達と、高野山で胡麻豆腐を食べてきた。
昨日はタカマツのあまりのボケぶりに切れてしまったが、普段の健治は面倒見が良く、色々とよく気がつく真面目で優しい男である。
仲間内でも、気配りの健治と言われて皆に慕われている。
健治は琵琶湖に向かう前に、とあるマンションに寄り道する。
駐車場にKeiを駐めると、まだ二十代とおぼしき艶っぽい女性が、幼児の手を引いて出てくる。
この親子も健治の友人で、今日は一緒に琵琶湖に行くことになっている。
何かと機会があるたびに健治はこの親子と行動を共にしており、娘もすっかり健治に懐いている。
というか、健治はすっかり娘のオモチャになっている。
実は健治、この母娘に好意を抱いている。
「おはよー」
健治が言うと、
「おはよー! つる!」
と娘が応える。
娘は、いつも健治の事を「つる」と呼んでいる。
3人を乗せたKeiは、琵琶湖へと向かった。
娘はいつものとおり大はしゃぎで、ワイワイと騒いでいるうちに琵琶湖に到着した。
琵琶湖では、既にランクルの仲良し一家とアルファ乗りのイケメンがバーベキューの用意を整えていた。
さらに、いつものショートパンツが似合う娘や、ゴルフ焼けの笑顔がいい女性、ジモピーで長身のコペン乗りなどに加えて、中部から来た女装が似合いそうな可愛い顔をした青年、ずっとにこにこしているラッパ吹きや、50代なのに既に孫がいる、浜松からステージアで駆けつけたスマートなロマンスグレー男性など、多彩なメンバーが揃っていた。
飲んで、食べて、楽しい時を過ごした健治は、来た時と同じように、母娘をKeiに乗せて、日の暮れた琵琶湖を後にした。
高速を東へと向かううちに、後席で騒いでいた娘は眠りについたようで、Keiのエンジン音だけが響いていた。
高速を降りて、母娘のマンションが近づいてくる。
「実は・・・」
黙り込んでいた健治は、思い切った様子で切り出した。
「えーっと・・・あの・・・」
言い淀んでいると、突然後席から声が上がる。
「つるー!」
「うわ!」
驚いて後席を見ると、娘はまだ寝ているようだ。
「なんや、寝言か・・・ははは」
そうこうしているうちにマンションに着いてしまう。
「何か言いかけてなかった?」
女性が尋ねる。
「え、ああ・・・いや、ほな、また遊びに行こ」
「そう。うん、楽しかったね、今日は。ありがとう」
女性は娘を抱いて手を振った。
「じゃ、おやすみー」
「おやすみー」
健治もKeiを走らせながら窓から手を振る。
マンションが見えなくなって、県道へ出たところで携帯電話が鳴った。
健治は慌てて道路脇に車を止めて、相手も確認せずに電話に出る。
「もしもし!?」
だが、電話の声は健治が期待したものではなかった。
「もしもしー。鶴田先輩っすかぁ?」
「な、なんや。タカマツか・・・」
「なんすかそれ。なんか期待はずれだったっすか?」
気の抜けた健治の声に、タカマツが不思議そうに応える。
「いや、何でもないって。それより何やねん、休みの日に」
「そうそう、わかりましたよ先輩、昨日の消費税入れて10,500円になるの!」
タカマツは叫んだ。
「わざわざそんなこと言うために電話したんかい!?」
健治はガックリと肩を落としながら応える。
「そうですよー! 昨夜からずっと考えてて、やっとわかったっすよ。いやー、すっきりしました!」
「そうか、良かったなぁ。ようやった・・・なわけないやろ! どんだけ暇やねん、タカマツー!」
叫んだ拍子にグラグラと揺れたKeiの車体がギコギコと音を立て、まるで笑い声のように夜空に響いた。

おわり

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この物語はフィクションです。
実在する人物、団体等には一切関係ありません。

今回は誰でも知ってる超有名な人気者がモデルです。
ということで、この物語は、老若男女、ちびっ子にも大人気、時には熱く人生を語り、でもどこか抜けてる憎めない性格、タンクトップでマッチョだけど心優しく、自在にづる語を操る、愛すべきみんなのづるに捧げます。(^_^)/
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コメント 18

A.U.

用務員さん登場!

しかもシチュエーションはいつしか通った道。

そして何故か世界のタカマツ登場!

やるなぁ、タカマツ。君はもう既に世界標準語だ!!!


by A.U. (2009-09-29 08:25) 

002Z

今日はBBQですねぇ

最後の電話は期待してしまいましたw

毎週楽しみにしていまーす。
by 002Z (2009-09-29 08:37) 

014けんづる

思いっきり吹きますた。。。
もはや時代の主役はタカマツで麩な。。。

最近はR2ばっかりで拗ねてるかもしれないのでKeiもかわいがってあげな。。。

でも、フィクションって書いてフィクションと思う人ほとんどおらんね。。。
実生活でもはっぴぃえんどめざして頑張り魔麩!!!
まずは今週末。。。


そして、次週はいよいよ!だんでぃ~なあのお方登場で麩寝!!
by 014けんづる (2009-09-29 08:43) 

026 Old Y

琵琶湖のBBQ、半年前の出来事だったんですねぇ。。。
あの時、づるたんに誘ってもらわなかったら今の出逢いはなかったんですから。。。

感慨深いものがあります。
あそこから人生に躓きいや輝き・潤いが増したのか(笑


>50代なのに既に孫がいる

コーシースプラッシュ…かろうじて止まりましたが、一体誰の話なんでしょうか?(笑

主役を食ったタカマツ!
部下には欲しくないけど一度会ってみたい気もする。。。

by 026 Old Y (2009-09-29 10:43) 

022 koge

車よりも目立ってるタカマツwww

そうか、イベントネタは魚釣りとか、山歩きとか
まだまだ色々ありましたね。

来週はどんなお話になるんでしょう。
楽しみにしてますね。
by 022 koge (2009-09-29 15:36) 

015 猫目

あう
> やるなぁ、タカマツ。君はもう既に世界標準語だ!!!

本名やったらどないしょう。(笑)


ぜっとん
> 最後の電話は期待してしまいましたw

期待どおりにならないところがづる。(笑)


づる
> もはや時代の主役はタカマツで麩な。。。

うんうん。
で、それはそれとして、づるに謝っとかなアカン。
タカマツとのくだり・・・著作権はほぼづるにある堕酢。(^^;;)

> でも、フィクションって書いてフィクションと思う人ほとんどおらんね。。。
> 実生活でもはっぴぃえんどめざして頑張り魔麩!!!
> まずは今週末。。。

じぶで暴露してどないしまんねんな・・・。


おるでぃ

というか、ほぼ全てがまだ今年に入ってからの話やもんね。(笑)
色んなことがあったねぇ、この数ヶ月。

> 主役を食ったタカマツ!
> 部下には欲しくないけど一度会ってみたい気もする。。。

じゃ、今度はタカマツ見学ツアーを。\(^_^)/
よろしこ>づる


こげぱん

> そうか、イベントネタは魚釣りとか、山歩きとか
> まだまだ色々ありましたね。

うぉっと。(^^;;)
さすがにでもそろそろネタ切れでーす。

ま、来週はなんとかなる予定やけど。(^_^)

by 015 猫目 (2009-09-29 18:29) 

061 CSの語り

づるたん参上!

いやあ、愉快痛快~怪物くんは~
怪物らんどのぷりんすだ~い!(意味不明

今回は、今までの登場人物が爽やかに登場ですね~。

みんなの顔が浮かびました~。
出席してないけど(笑)

しかし、タカマツ…。

>本名やったらどないしょう。(笑)
確かに(爆)

もう、世界基準になりつつあるタカマツ。

というか、づるたん主役食われてまっせ(笑)

で、最後の電話。ドキドキしてしまいましたがな(笑)
で、づるたん自分で発表しちゃってるし(爆)

by 061 CSの語り (2009-09-29 23:01) 

074 わからん

楽しいお話でした。人の繋がりが面白いですね。

クルマのギコギコ音、色々あるけど洗車場で
前後のバネの上と下をしつこく高圧洗車して
直後に乗った時音が消えてたらそこが発生源。
バネと受け皿の当たり面と皿の上の隙間に
スプレーグリスを吹き付けちゃいましょう。
しばらくは声が静かになるでしょう。多分。

でも、他の声が気になってくるからご用心。
音って色んな原因があるからムズイです。
中にはヤバイ原因もあるので楽しむのはギコギコ位かな。
ガッキガッキ言い出したら気にしよう。
規則的な異音「カラカラとか」はデカクなってきたら
即ドクターへ急行しよう。

ジーパン殉職な米だすた。

by 074 わからん (2009-09-29 23:40) 

014けんづる

兄さま。
>づるに謝っとかなアカン。
>タカマツとのくだり・・・著作権はほぼづるにある堕酢。(^^;;)

そんな謝らんで蔵灰。
タカマツ(仮名)も初めて人の役に立てたって喜んでるかも??
あ。あくまでも仮名で麩から。仮名!!

で。。。
暴露!?かなぁ。。。
週末頑張るって言っただけなのに(ぇ
詩えすたんも勘繰り過ぎよ(ぉ

にしても、読めば読むほど恥ずかしいで麩な。。。
フィクションてわかってても。
by 014けんづる (2009-09-30 09:01) 

015 猫目

しえすた
もはや主役はタカマツ?\(^_^)/


わからんたん
ギコギコ音の直し方おおきに。
頑張れよ。>づる(笑)

最近はでも、そういう車も減ったねぇ。


づる
完璧に有名人になってもたな、タカマツ。(^^;;)

まぁ、そんなに恥ずかしがらんでも。公然の秘密やし。(ぇ

by 015 猫目 (2009-10-01 17:48) 

068 子鼠

車のある風景、毎回楽しみにしています。
NBOでY夏が担当していると思われるGTR特集も面白いですし。
今週末は近場でホンダレーシングが開催されるので、レースクイー ... 、いやレースを楽しんできます。
by 068 子鼠 (2009-10-02 15:10) 

015 猫目

子鼠さん・・・って、初めまして?(^^;;)
コメントありがとう!

F1も始まりましたねぇ。
レース・・・楽しんで来て蔵牌。(^_^)/

by 015 猫目 (2009-10-02 22:55) 

032_oyasan@まおたん

タカマツ~ぅ(仮称

ちょっと 吠えてみたくなりました。
Keiは いい車ですよねぇ。
心もあったかくなる車です。

づるたん登場! みんなのづるたんですもんね。

いつもコメがおそくなってごめんなさいなのでした。
師匠、ほんと 今週もありがと~
by 032_oyasan@まおたん (2009-10-02 23:57) 

023-QT

いやぁ〜 タカマツ 一度お会いしたい。
いいキャラです、あのイラッとさせるとこ。
ししょーおもしろかったです。

by 023-QT (2009-10-03 11:49) 

015 猫目

おやさん、どもども
慌てなくても大丈夫。ゆっくりでエエよー。(^_^)


Qちゃん
麩麩、桑名へ行ったら会えるかも。\(^_^)/

by 015 猫目 (2009-10-03 19:11) 

NO NAME

健治の携帯が鳴った。

今度こそ、と期待して着信相手も確かめずに電話に出た。

「おお、鶴田くん、こんな時間にすまん。」
健治の直属の上司からの電話だった。

「部長、どうかされましたか?」
上司の声が何事かただならぬ気配であることに気付いた健治は、できるだけ落ち着いた声でこたえた。

「うむ……実はタカマツくんのことなんだが……。」
健治の不安は的中したようだ。

「先日、メールで送るように頼んでいた見積書なんだが、鶴田くん、彼に消費税の税込み金額の計算方法を教えていたよな?」

「はい、その件でしたら、彼も充分理解したようです。さっき電話で話したばかりです。」

「電話? 携帯でか?」

「はい。」

「そうか。見積書を送ったら私の携帯に電話をくれるように言っておいたんだが、まだかかってこないんだ。ところが、さっき先方から見積書が届いたと連絡が入ってね…。」

「え? タカマツのやつ、部長に電話してないんスか?」

「そうなんだ。」

「部長の携帯番号って、タカマツはちゃんと知ってるんですよね?」

「そのはずなんだが…。」

「わかりました。ちょっと私からタカマツに連絡とってみます。」

「すまんな。」



上司との電話が終わるとすぐに健治はタカマツの携帯にリダイアルした。

「あ、鶴田先輩、どうしたんですか?」
相変わらずの間の抜けた声だ。

「どうしたやないやろ。おまえ、部長に電話いれたか?」

「ああ、さっきから何度もかけてるんですけど、知らない人が出るんスよ。」

「ああん? どういうことや?」

「そんなこと、部長に聞いてくださいよ。オレ知りませんよ。」

「おまえ、ちゃんと部長の携帯番号、間違えずにかけてるんやろうな?」

「先輩、いくらなんでも、オレ、そこまでアホちゃいますよ。ちょっと待ってくださいね…。メモ帳見ますから…。ええっとですね…090-××××…。」

「ちょっと待て。部長の携帯は080-やぞ。」

「うそやー。携帯ゆうたら090に決まってるやないですかぁ。」

「おまえ、携帯番号は090だけちゃうぞ。080もあるんやぞ。」

「またまた。うまいことゆうてオレをハメようとして…。」

「…………。」

「ダメですよ。そんなことに引っかかるようなオレちゃいますよ。」

「…………。」

「え?…マジすか…。」




健治の苦労はまだまだ続くのだった。それも思いもかけない角度から…。

by NO NAME (2009-10-16 18:08) 

045 ch-k ってゆーかC★ちさとでーっす(笑)

 ↑
しもた。名前入れ忘れてた。

by 045 ch-k ってゆーかC★ちさとでーっす(笑) (2009-10-16 18:31) 

015 猫目

やっぱり、今度からちさとんに書いてもらおう。(笑)
いや、こればっちし続編になってるやん!\(^_^)/

世界のタカマツシリーズ。
次は誰や?(^_^)
by 015 猫目 (2009-10-16 22:40) 

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