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THノベルズ「交差点の飛行機雲」 [図書室]

昔から空を見上げるのが好きだった。

草原に横たわり、目をつぶる。
地球が動いている、ということがはっきり感じられる瞬間だ。

目を開けると青空の中に一片の雲、時には満天の星たち。
空と大地を独り占めして、大きく深呼吸。

それだけで、自分が新しくなったような気がした。

*****

都会暮らしを始めてから一番驚くことは、「人が空を見ない」ということだ。
ほとんどの人たちは、足元を見つめ足早に通り過ぎる。

決して転ばないように。

転んだって、また立ち上がればいい。そのことを知らないのだろうか?
いや、都会のアスファルトでは、転んだ時の痛みが強すぎたのだ。もう二度と転びたくないと思えるほどに。

だから都会の人々は空を見上げることをしない。
うつむき、地面を見て歩く。しかし、そこに見えるのは草木の生えないアスファルトの地面だ。

草原やあぜ道で転んでも地面は優しく受け止めてくれる。何度転んだっていいと思わせてくれる優しさがある。
でも、アスファルトは人間を拒絶する。人は自分の作ったものに拒絶されている。

そんな地面を見るのはつらかった。だから、僕は空を見上げる。コンクリートで切り取られた、箱庭のような空を。

そして、きっと彼女のあの視線に気がついたのは、僕だけだった。

*****

抜けるような青空が広がる秋の午後。
大通りをはさんだ交差点の向こう側に、彼女は立っていた。

うつむいた人たちの頭しか見えない、真っ黒な背景の中に、頭一つ高い彼女の白い顔だけが浮かび上がっていた。

彼女は僕と同じように、空を見上げほほ笑んでいる。
ふと彼女の視線の先に目を向けると、一筋の飛行機雲が空を斜めに切り取っていた。

彼女に視線を戻すと、向こうもこちらに目を向けている。
視線が絡み合う。

僕たちは、どちらともなく笑みを交わした。

風が交差点を吹き抜ける。

うつむいている人たちは、風にも気がつかずにただ立っていた。
その時、僕は彼女がとてもきれいな髪をしているのに気がついた。

風に舞い上がる長い髪を、とても優雅に手で押さえる。

彼女だけにスポットライトが当たっている。
このまま時が止まればいいと、本気でそう思った。

*****

やがて信号が変わり、人の波が僕と彼女を交差点に向かって押し流していく。
少しずつ、少しずつ、僕と彼女の距離が縮まっていく。

スクランブル交差点の複雑な流れの中で、誰もこちらを見る者はいない。
誰もが自分の目的地に向かって、わき目も振らず歩いて行く。

流されそうになる。
僕は彼女を探した。

視線が再び交差し、お互いににっこり笑うと何事もなかったように通り過ぎていく。

*****

交差点を渡り終わり振り向くと、もう彼女はどこにもいない。

空を切り取っていた飛行機雲も、滲んで消えかかっていた。

僕は何となく幸せな気分で、もうちょっと頑張ってみようかな?と思った。
次の休みには、田舎に顔を出そう。あの空に会いに行こう。

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こんにちは、THです。

先週の「息子の名前」は、ちょっと悲しいお話でした。今回はさわやかにしてみたのですが、いかがでしょうか?

けんづるさん、ナイスアシスト!
秋の空での一遍です。いかがですか?

師匠、訂正ありがとうございます。やっぱり、そちらでしたか。ディーノが愛称だとは知っていたのですが、アルフレードからディーノがつながらなかったので…。名前の愛称は特に英語圏の場合難しいですね。
新作、カフカを連想させる変身物でしょうか?スティーブンキングの映画(あれは車でしたが)のように、壊しても壊しても復活しそう…

Zさん、私も三浦牧場が好きです。書くとしたらそれでしょう!直線の車は、どうも好きになれません。
もうちょっとお時間下さいね。なかなかテーマが決まらないんです(泣)。


さて、私は東京育ちですが、母の実家が大阪でした。といっても、松原市という田舎の方ですから、裏手には畑が広がっていました。(祖父は会社員でしたが)

小学生のころはPL学園の花火大会が見えるほど、マンションなどの高い建物もなく、葛城山がよく見えていました。収穫の終わった畑の中で、弟や幼馴染と凧あげをしたのを覚えています。

NBOで話題になった「道明寺」も近くに(駅で4つほど)ありましたし、ちょうど田舎と都会の中間地点といえばいいでしょうか。

ろくに知らない世界を描くのはおこがましいですが、京都や奈良、飛鳥は大好きで、独身時代にはよく出かけました。
高野山なども何度か行きましたね、南海電車で(笑)。今度行ったときには、ぜひ、ごま豆腐を賞味させていただきたいものです。

子供がもう少し大きくなったら、一緒に空を見に行きたいと思います。

では。
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コメント 10

023-QT

さわやかです、とても。
歌になりそう。
がんばろっかーという気になります。

by 023-QT (2009-10-15 02:09) 

015 猫目

なかなか・・・作品の幅が広いねぇ、THっち。(^_^)
好きです、こういう風景。

ゴキブリ話は・・・まぁ、大したことにはらんです、はい。
なんせ、猫の額は狭い。

で、ディーノ、何で愛称がディーノになるのか猫も知り魔変・・・。(^^;;)

まぁ、CSの語りがしえすたになるようなもんかな。(違

by 015 猫目 (2009-10-15 12:57) 

026 Old Y

まずタイトル見て
♪飛行機雲♪が流れ

読んでいる時は
♪卒業写真♪てな感じでした。

何だか♪やしさに包まれたなら♪みたいに
ユーミンの世界に浸っちゃいました(笑

いいなこの景色!!
次は♪雨のステーション♪で(ぇ


by 026 Old Y (2009-10-15 16:59) 

074 わからん

最初の一節、忘れていた感覚でした。

同じ事をしていたのに・・・。

話ってこういう事があるからおもしろいし

価値もいろいろ産まれるんですね。

気持ちよかったです。


by 074 わからん (2009-10-15 22:31) 

032_oyasan@まおたん

よかったぁ^^
空を見上げよ~。
さっき見たら すてきな星空でしたお^^
青空も星空も すんだ空気が心に染み行ってきますね。
by 032_oyasan@まおたん (2009-10-16 00:50) 

A.U.

田舎暮らしが長いので(今日は星が多いなぁ・・・)とか
(おっ!今日のお月様はでかいぞ!)とか
(あー秋の空になってきたよなぁ・・・)とか
思います。主に車窓からとタバコ部屋の窓から。

街へ出るとあまり顔を上げて歩きませんね。
特に大阪駅の中央乗り換え通路では。
こんどからちょっと視線を変えてみよっと!
by A.U. (2009-10-16 08:32) 

044 いちご

帰り時間の空模様に季節を感じる今日この頃で麩。

ちょっと前までは電車を降りたら夕焼けだったんだけど、
最近はビルの谷間の夕焼け空を見てから電車に乗りま麩。

曇り空だとものすごぉぉぉぉく残念な気持ちになったり。

何とはなしに、知らない人同士が、
ひとつのものを見て、微笑む。

言葉は要らないよね。



ちょす。
by 044 いちご (2009-10-16 09:00) 

045 ch-k ってゆーかC★ちさとでーっす(笑)

おおおおおっ、きっ、きっ、近鉄南大阪線→長野線!

阿部野橋から乗って藤井寺→土師ノ里→道明寺→古市→喜志→富田林、の喜志に居てました。中学入学から高校卒業までの6年間。サッカーに夢中で、いつもどうやってドリブルで相手ディフェンスを突破するか、それしか考えていませんでした。

高校卒業してから25年ぶりに母校を訪れたのがもう今から4年前のこと(たしかその年のプロ野球日本シリーズは「なかったこと」にされてたはず)。

周りの景色も、校舎や体育館の様子なども当時とは随分変わってしまってはいたけれど、グランドに立って、コーナーポスト(キッカーを務めていたのはいつも私)付近からゴール方向を眺めたときに、ざわざわざわ…っと地面から25年分の何かが湧き上がってきたような気がした。

「ちさとーっ、そんなトコでなにしとんねん。早よこっち来いやあ。」

なんか、どこからどー見てもチューネンのオ□サンにしか見えない人(たぶんかつての同級生を思われる)がデカい声で私のことを呼んでいる。

そーだ、思い出した。今日は卒業以来25年ぶりに初めて行われる同窓会に出席するために来てたんだっけ。

ところで、あなた、だれ?


by 045 ch-k ってゆーかC★ちさとでーっす(笑) (2009-10-16 11:28) 

014けんづる

THん。けんづるのナイスアシストというよりも。

これはまさしくTHんのナイスフォローなのではと思う今日この頃。
日常の一コマにあるドラマ。
ナイスで麩!!

やっぱり、THんはキーボードの魔術師で麩!!
などと賞賛してると校長がやっかむかチラ?麩麩麩。

やっぱり、空見てると気持ちいいなぁ。
雨や雪の日に上を向いて口あけてた阿呆な少年時代を想い出しました。。。
by 014けんづる (2009-10-16 13:48) 

030 ダルコ

づるたん、雨や雪の日に上を向いて口あけてた阿呆な少女でしたw

朝、カーテンを開けてビルの隙間から見える空の色。
夕方、会社帰りにビルの隙間に沈む夕陽の色。

空は毎日見てますね。
でも都会の空は狭いです。
それでも雨の降った翌日、青い空を見るとちょっと幸せ。
by 030 ダルコ (2009-10-16 21:13) 

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