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【寄贈本】ゴキブリはコンピュータに卵を産む(後編) -ヌコ文庫- [図書室]

車で走り出して最初に考えたのは、最近の車はほとんどコンピュータで動いているということだ。
当然、車にもLSIは沢山使われている。
京介は車を走らせながら、いきなりハンドルが勝手に動いたり、ブレーキが利かなくなったりしたらどうしようかと冷や汗をかいていた。
しかし、よく考えると、京介の車は10年以上前のポンコツで、LSIが使われているとしても、せいぜい燃料噴射装置くらいで、ABSも付いていないし、パワステも電動ではないので、普通に走る分には特に問題はないと気づいた。
そうこしているうちに、無事教授の家が見えてきた。
「ピンポーン! ピンポーン! ピンポーン!」
京介は焦って呼び鈴を押した。
「はーい」
玄関が開いて、鍋島先生の奥さんが顔を出した。
「あら、雨宮さん。 こんにちは。今日はいつもの集まりだったかしら?」
「いえ、違います。ちょっと急用で、鍋島先生おられます?」
鍋島と京介は、インターネットのあるサイトがきっかけで知り合った。で、ちょくちょくそっちの方の集まりで、顔を合わすので、奥さんはそのことを言ったのであった。
「そう。今日は珍しくいるわ。ちょっと待ってくださいね。あなたー。雨宮さんよー」
奥さんの呼びたてに、大きな腹を揺らしながら、鍋島が顔を出した。
「おぅ、雨宮君か。まぁ上がれよ」
そう言って鍋島はさっさと階段を登り自分の部屋に向かった。
「どうぞ」
奥さんがスリッパを出す。
「あ、すいません。じゃ、ちょっと失礼します」
京介はパソコンを抱えて鍋島の後に続いた。
鍋島は、いつものように書斎に入ると、パソコンの前の座り心地のよさそうな回転椅子に、どっかと腰を降ろした。
「どうしたんだい、パソコン抱えて? まさかおれに修理させようってんじゃないだろうなぁ」
鍋島は大きな顔でにっこりと笑った。
「ははは、それが当たらずとも遠からずってやつで・・・。どうも妙なんですよボクのパソコン」
「おいおい。パソコンは君の方が専門だろうが」
「そうなんですが。まぁ、何にしてもこれを見て下さい」
京介は恐る恐るパソコンのカバーを開いた。
「これなんですけど、どう思います?」
京介に言われて、鍋島もパソコンの中をのぞき込んだ。
「どう思うって・・・特に変わったところはないようだけど?」
「良く見て下さい。LSIに型番がないでしょう、ひとつも」
「ん? ふむ、確かにそういえば。なんなんだいこれ? どっかの試作CPUボードでも仕入れたの?」
鍋島はまだ、京介が何を言いたいのかがつかめていなかった。
「そうじゃないんです。もともとふつーのLSIだったはずなんですが、どういうわけか・・・。ということで、もう少しよく見て下さい。ICの頭の辺りに、何か付いてるでしょう?」
「ふむ? むむ、この髪の毛みたいなやつのことかい?」
「そうですそうです! それをみて何か思い浮かびません?」
京介は、自分の突飛な考えを口に出すのがためらわれて、なんとか鍋島の口からそれを言わせようとしていた。
「何かねぇ・・・。 私が思いつくのは昆虫の触覚ぐらいかなぁ・・・」
「そ、それですよ! それ!」
鍋島はいきなり京介が勢い込んだので、驚いて顔を上げた。
「どうしたんだ、一体?」
「あ、すみません、つい。その、触覚に見えるでしょう、それ?」
「ああ、確かに見えないこともない」
「そうでしょ! ね!」
ようやく同意を得た京介は、これまでの経緯をかい摘んで話した。
「・・・というわけでですねぇ。その結果がこれなんですよ」
「なるほど、それは確かに妙だな」
「でしょう。 で、良くみるとですね、ボクにはそれがゴキブリに見えてしかたがないんですよ」
京介は、ようやく結論にたどり着いて、ほっとした。
「ゴキブリ? ふむ、なるほど、そう言われてみれば、確かによく似ている」
「そうなんですよ。それで、きっと先生ならその辺りを調べてもらえるだろうと思って持ってきたんですよ」
「なるほど。よし、わかった。明日、研究室に持って行って調べて見よう」
「お願いします」
京介は、ようやく自分以外の人間に同意を得て、すっきりした気分で鍋島邸を後にした。


一週間後、京介のところに鍋島から電話が入った。
「はい、雨宮ですが。ああ、鍋島先生。何かわかりました、例のやつ?」
「結論から言うと、君の推測は正しかった」
鍋島は、ゆっくりと抑揚を抑えた声で言った。
「え!? ってことは、やっぱりゴキブリなんですか、あれ!?」
「そうだ。ただし、ただのゴキブリではなく、LSIとゴキブリが一つになった、ゴキブリLSIだ」
「ゴ、ゴキブリLSI!?」
京介は目眩をおぼえた。コンピュータのLSIが、よりによって京介のもっとも嫌いなゴキブリと一体化してしまったというのだ。しかし、それではコンピュータは一体どうなってしまうというのか。LSIがゴキブリになったと聞いた時点で、もうどうでもよくなってしまった京介であったが、取り敢えず質問をした。
「で、そいつは生きてるんですか?」
「そこが問題なんだ、実は。一応このゴキブリはLSIとして動作している。しかし、LSIとしての動作以外に自分の意志でも動くようなんだ。しかも、他のLSI、いやゴキブリかな、まぁどっちでもいいが、そいつらと情報を交換しながら動いているようだ」
京介は言葉が出なかった。ということはつまり、コンピュータがゴキブリの意志のままに動作するということである。
「それじゃ、このままではゴキブリにコンピュータを・・・」
と、自分で言いかけたことの大きさに思わず言葉を詰まらせた。
「そうだ。これが、君のコンピュータだけでなく、現在ありとあらゆるものに使われているLSIが全てゴキブリに変わってしまったら、日本は・・・いや、世界は大パニックだ」
事の重大さに、京介は身震いした。そんな京介に追い撃ちをかけるように鍋島は言った。
「その辺りにある電気製品を、片っ端から調べてみたが、既に全てゴキブリが載っていた」
京介は、部屋の中を恐る恐る見回して、冷や汗をかいた。コンピュータの周辺機器は言うに及ばず、エアコン、電話、ポット、テレビ、DVDプレーヤーなどなど、今やコンピュータの入っていない電気製品は存在しない。それらが全てゴキブリに乗っ取られてしまうのか。
「これは大変なことだよ、雨宮君。私はこれから、早速大学の方の各教授や、政府関係者を集めてこのことを報告するつもりだ」
「しかし、何か対策はありそうなんですか?」
「それなんだがね、この3日の間に色々調べたんだが、どうやら電源を切った状態で、電気回路に被害が及ばない方法でゴキブリを殺してしまえば、LSIとしての機能に問題はなさそうなんだ」
「そうなんですか!? それなら退治できるじゃないですか!」
鍋島の言葉に、京介は思わず叫んだが、ふと頭に浮かんだ疑問を口にした。
「でも、どうやってゴキブリを殺したんですか?」
「もちろん、殺虫剤に決まってるだろう」
鍋島は事も無げに言った。
「はぁ・・・」
「しかし、退治できることはわかったが、そのためには日本中のコンピュータやら電気製品を止めなければならないわけだから、果たしてそれが可能かどうか」
退治できるとわかってホッとした京介の顔が、そのまま引きつった。
「そうか・・・」
「なんにしても、取り敢えず今のところはそういうことだ。では、そろそろ会議が始まるので、これで失礼する」
「はぁ、なんとかよろしくお願いします」
京介は力なく電話を切った。部屋中にゴキブリがいるかと思うと、背中がゾクゾクして、居たたまれなくなった京介は、思わず外に飛び出した。


さらに3日後、ありとあらゆる報道機関を通じて、ゴキブリLSI撃滅作戦が、日本中に報じられた。Xデーは二週間後と決まった。この日、電
力会社は全ての発電装置を停止し、日本総国民の協力を得て、ありとあらゆるところでバルサン・・・そう、電気製品の隅々まで行き渡るように、この煙のゴキブリ駆除剤が選ばれた・・・を使って一気にゴキブリを退治しようという作戦であった。
二週間フル操業で増産されたバルサンは、各家庭や企業に配備された。そうして、いよいよXデーがやってきた。午前9時が開始時刻に定められていた。1時間前の午前8時、日本中の電気機器が停止した。家庭や職場で、一斉にバルサンが設置され、全ての国民が息を飲んで午前9時を待った。
京介も、もちろんその一人であった。
「ヒュルルルー・・・ドーン!」
電気が使えないため、開始の合図に選ばれた花火が響き渡った。
「くたばれ、ゴキブリLSI!」
京介は、叫ぶと同時にバルサンをセットして、表に飛び出した。辺りを見回すと、皆が家の外に飛び出してきた。やがて、家々の窓や屋根から白い煙が上がってくる。それをぼんやりと見ていた京介は、ふと目を凝らした。
「おや、なんだあれは?」
白い煙にまじって、なにやら黒っぽいものが見えたのだ。それはやがて雲のように広がり、ブーンという羽音とともに、やがて空を覆い尽くすほどになった。
「ま、まさか!?」
京介は夢中で部屋に飛び込んで、まだ煙のたちこめる中、昨日鍋島のところから帰ってきで、カバーが外されたままになってるコンピュータをのぞき込んだ。
「なんてことだ!!」
京介は茫然と立ち尽くした。コンピュータのボードの上のLSIが、一つ残らず消え去っていた。

おわり

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そんなわけで、久しぶりにSF?
あんまし気持ちのエエ話ではなかったかもやけど・・・。(^^;;)

大したオチにならんで寸魔変。m(__)m
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022 koge

飛び立ったゴキLSIは世界中に広がって、世界征服?
実は、全世界で同じことが起きていた?
完全機能マヒの日本は江戸時代の生活を強いられる?
そうなると、CO2排出は大幅削減。
ゴキLSIは、地球が身を守る為に産み出した?

読後の余韻でSF妄想紡いでみましたぁ。
次回も楽しみにしてます。
by 022 koge (2009-10-20 08:12) 

A.U.

と、飛んでいったゴキブリはどこで再集結するんでしょう・・・
おーこわ。次回、逆襲のゴキブリ! なんて・・・
by A.U. (2009-10-20 08:27) 

ch-k ってゆーかC★ちさとでーっす(笑)

ぎゃあああああああああああああああ!!!!!!!!!
いやだああああああああああああああ!!!!!!!!!

空一面を黒々と覆いつくす“頭文字G”の群れ。

ぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞ
ぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつ
ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ

全身を襲う寒気、鳥肌立ち、総身の毛が一本一本意志をもつ。




まさか、こいつら、噛み付いたりしないですよね?

by ch-k ってゆーかC★ちさとでーっす(笑) (2009-10-20 12:53) 

061 CSの語り

早めの参上!

しえすたでござーますだ、増田牛(また?

頭文字G…。
頭文字Dは聞いたことがありますが(笑)

ゴキはやっぱり見たくねえですねえ。
なんであれ苦手なんですかね?

中国では煎じて飲むなんて聞いたことあありますが、
ちょっと、虫系はだめですねえ。

この時期イナゴの佃煮もしえすたの田舎には出てきますが、
どうもだめ。イナゴはカルシウムなんていってますが、
あれ食うなら、サプリのほうがいい!と、
いつも思ってしまいます(笑)

先日、イナゴのおいしい佃煮ができたよ!
と、満面の笑みを浮かべた区長さんが、
わざわざお茶飲みに来いと言ってくださり、
ありがたく頂戴してきました(爆)

いやあ、えらい人の前では好き嫌いがなくなる、
腹の中はゴキブリと同じ色。

もう、ただの黒では飽き足りず、
腹の中が黒光りした
しえすたがお送りいたしました(ぇ
by 061 CSの語り (2009-10-20 22:29) 

030 ダルコ

ば、ばるさんっ!
確かにマンションでは隣近所一斉にやらないと隣に逃げちゃうとは聞いたものですが…
まさかお空に飛び立つとはw
ベランダから見える景色に重ねてみて戦慄しました。
by 030 ダルコ (2009-10-20 23:43) 

023-QT

Qも読みながら部屋のあちらこちらをチェックしてしまいました。
動いてもいない影を見てドキッとしたり。

昔、joe's apartment (勇気のある方ググって下さい)という大量のゴキちゃんが出演する映画を見たあと、部屋の中のありとあらゆる場所に奴らが潜んでいるのではという妄想にとらわれたのと同じ気分になりました。
ちなみにコメディです。
怖い怖い怖い怖いこわーい

by 023-QT (2009-10-21 05:02) 

015 猫目

今回もみんな読んでくれてあんがとー。(^_^)/

こげぱん

すげー。
なんぼでも続編ができそうやね。\(^_^)/
いっぺんやってみるのも面白そうね、リレー小説。


あう
実はゴキブリはシリコン生命体で、どこかで集結、合体して巨大シリコン生物が出来上がる・・・なんてね。(^_^)


ちさとん
噛みつきはせんと思うけど・・・ダメよねぇ、あのてらてらと光る背中を見ると、それでもう戦意喪失、逃げるしかない。(^^;;)
猫はゴキブリ大の苦手です。
部屋の中で羽広げて飛んだりするともう大パニック。
カブトムシは平気やのになぁ。似たようなもんな気もするが。


しえすた
虫系はねぇ、食べる気がせん。(^^;;)
バリバリって食いついて、唇の端から足がのぞいてたりすると・・・ひゃー、こぇぇぇ!!

ゴキブリは・・・焦げ茶色やけど。(をい


だるぴ
空が黒くなるほど飛んできたら、多分気を失う。(笑)


Qちゃん
なんであんなにコワイんやろねぇ、ゴキちゃんは。
ゴキ映画は・・・見たくない。(^^;;)

昔、平井和正やったかな、ウルフガイシリーズで、スリッパぐらいの大きさ(全長30cmくらい)のゴキブリがって話があったけどね。
あぁぁぁ、玄関のスリッパの横にそれが並んでる姿を想像してしまったぁぁ・・・こえぇぇ!!

by 015 猫目 (2009-10-21 12:26) 

014けんづる

・・・で、取り残されたPCの筐体はゴキブリ(LSI)ホイホイとして再利用されましたとさ。めでたしめでたし?

でも、空を覆いつくすほどのゴキブリLSIってことは、まだ生きてるんで麩世ね? やっぱり逆襲あるかも。。。
キーボード叩きながらモノ食べてる人。気をつけて蔵灰ね!!
ほら。その食べかすに引き寄せられて、GLSIが。。。。
by 014けんづる (2009-10-22 15:27) 

032_oyasan@まおたん

遅れて登場失礼します。
なんと 本物の黒いあれだったんですねぇ。
かつては 一緒に混浴したり、一緒に寝たり らぶらぶだったのに
最近あまりみかけないなぁ・・・
やっぱりPCに隠れてたのかなぁ^-^

笑うというより こわかったですっ
ちなみに 彼らの移動速度、車サイズにするとスーパーカーなみだというのを どっかのテレビでみた記憶がありますっ
ということで やっぱり 車の話だったのね~w とかいってみるw
by 032_oyasan@まおたん (2009-10-22 23:20) 

057 郷午言

猫目師匠

いつも楽しかったり、おぞましかったりのお話ありがとうございます。今回のおぞましさはジェニファーといい勝負です。
当分眠れない日々が続きそうです。

件の小説、アダルトウルフガイの1作目「狼男だよ」ですね。
巨大Gが小包で送られてくるのが発端の話。
不死身の狼男も、Gが苦手なんですよね。

何か、ここでは「○○は××が苦手」の話ばかりしているような
気もしますが。

私が想起した映画は、「クリープショー」。
スティーブン・キング×ロメロのオムニバスですが、
その中の1話に、潔癖症の老人とGの話が。
この映画、もう1回観たいのですが、残念ながら
DVD化もされていないんですよね。

by 057 郷午言 (2009-10-23 01:43) 

044 いちご

うはははははは。

笑い事じゃないで麩ね。
でも想像したら笑いが止まらなかったス。

全国?全世界?のLSIの数って・・・・・・・・。
ハンパじゃないで麩世ね。

そのうち共食いすんのかな。(怖


ちょす。
by 044 いちご (2009-10-23 08:53) 

015 猫目

おっと、今週の登校日はもう明日だ。(^^;;)
ということで、いつもコメントありがとー。

づる

たまには掃除してねー、PCも。(^_^)
食べ物はまだマシやけど、コーシーこぼしたらキーが利かなくなりまーす。


ぼなしー

ひゃー、添い寝したり混浴したり・・・卒倒する堕酢、猫は。(~_~;
その方が恐い。

そか、そんなに速いのか、奴らは。
だから恐いんやな。


ごごごん
ジェニファーも確かに恐いけどね。(ぇ

そか、1作目、「狼男だよ」やったね。
あまりに昔の事で記憶が。(^^;;)

結構あるのね、Gの映画。


あかねん

共食い・・・してくれたらエエんやけどね。(^^;;)
G君より多いやろね、LSIは。(^_^)


by 015 猫目 (2009-10-26 18:19) 

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