【リレー企画】テンカウント・リミット第二話 [図書室]
片桐は、「しまった。」と思い、静かに手を挙げた。
背中に当たる冷たい感触の位置から察すると、背後の男の身長は片桐と同じかやや高いくらい。小刻みに震えるような振動が、男がこういった犯行に不慣れなことを推測させる。
男の声が続く。
「あんた。何しに来たんだ?家族との関係は?」
愛車のアバルトから、「宅配でーす。」などと下手な嘘をついてもバレてしまう。ここは素直に依頼内容を説明するのが安全策であろう。
「私は、いわゆる何でも屋です。今日はここ、黒田様のご依頼で台所の温水器の不調を調べに来たんです。」
「残念だが、ここの主人は今外出中でな。改めて出直してもらおうか。」男の声は震えている。
やはり、この男、不慣れなようだ。
片桐は深呼吸し、何か抗戦できる道具はないか?と視線を泳がせた。
その時、温水器の陰で何かが動いた。そして。。。
「ぎゃっ!!」
ゴキブリの姿を認めた片桐は状況も忘れて思わず叫んでしまった。
背後の男はその声に驚いたらしく、一歩後ずさりした。
「今だ!」
片桐は素早く体を反転させ、背後の男の手を叩いた。
男の手からあっけなくナイフが転がり落ちた。
すかさずナイフを蹴りだし、男の手を後ろ手に捻り上げた。
「痛てててて。」男が声を上げるのを制し、男に質問する。
「正直に答えろ。中には何人仲間がいるんだ?」
「・・・・」男は無言である。
捻り上げた手に力を込め、「さあ、言うんだ。さもないと、この右手がしばらく使えなくなるかもな。」
「ま、待て。待ってくれ。一人だ。おれはこの家の者だ。親父に言われて見回りしただけだ。」
「くだらないウソをつくんじゃない!」
片桐はさらに手の力を強めた。
そのとき、背後から別の男の声がした。
「放してやってください。」聞き覚えのある声だ。
その声は。。。
「黒田さん!?」
「はい。。。あなたに温水器の修理を依頼したのは私です。」躊躇いがちに男は答えた。
「なぜ?。。。」片桐が最後まで言い切らぬうちに、黒田は続けた。
「こんな事をしたのか?ですね。まあ、家に上がって話を聞いてください。その前に、そろそろ息子の手を放してやってもらえませんかね?」
片桐は反射的に手を緩め、身構えた。
息子は、痛む右手をさすりながら、無言で父親の顔を恨めしそうに睨みつけている。
「やや。これは失礼。大丈夫かい?」片桐は警戒しながらも息子に声をかけた。
「はい。。。」先ほどの片桐の身のこなしに恐れをなしたのか、小さな声で呟くと家の中に入って行った。
どうやら、二人の男は本当にこの家の親子のようだ。
周囲の様子に警戒を続けながら、片桐も黒田の後に続き、玄関に足を踏み入れた。
玄関のすぐ左手に階段、右手に客間へのドア。なぜか黒田は客間へは案内せず、先に進む。
階段の奥にある廊下を進むと右手にドアが2つ並ぶ。おそらく浴室と便所であろう。
その廊下の突き当たり、ダイニングルームに女性が座っている。
女性は、もちろん先ほどの「テンカウント・リミット」に出てきた女性である。
女性の目はうつろではあるが、何かを伝えたそうに真っ直ぐ片桐に視線を据えている。
黒田は、女性の向かいに片桐を座らせ、自らは女性の隣に座った。
「先ほどは、試すような真似をして大変失礼しました。こちらは、既にお察しかと思いますが、私の家内です。」
片桐は、先を促すように小さく頷いた。
「実は、一週間ほど前から、家内の様子がおかしいのです。しきりに私の会社は危険だ。会社に行かないでくれ。私が命を狙われている。というのです。もちろん最初は、そんな突拍子もない話、信じませんでしたし、『馬鹿なことを言うな。疲れてるんだろう。今日はゆっくり休みなさい。』と言い残し出社しました。」
片桐は、「厄介なことに巻き込まれた?」と内心思いながらも辛抱強く話を聞いている。
「ところが、翌日妻が会社の人間の名前を挙げて、『この人が消される。』というのです。すると確かに妻が名前を挙げた社員が欠勤しているのです。
しかも、家に連絡をとった者が言うには、『夫はいつもどおり出勤しましたよ。何かあったんでしょうか?』と逆に質問を受けた。ということなのです。
さらには、消えた社員と妻とは面識が無いのに妻は彼の氏名をはっきりと口にした。なぜか知っているのです。
気味が悪くなり、その翌日は妻の体調を理由に会社を休んだのです。
そして、妻に『なぜそんなことが分かったんだ?』と問いただしたのですが、妻はそれには答えず、あなたの電話番号を言い、そこに電話をかけて家に呼ぶように懇願した。という訳です。」
片桐は、「でたらめではないか?」と疑ったが、話を続ける黒田の目が真剣そのものであることを否定することはできなかった。
黒田は話を続ける。
「そして、片桐さん。あなたが今日こちらに来るとき、大きな事故に遭遇しませんでしたか?」
片桐は驚いた。
つい先ほどの事故である。事故の状況はテレビでも、ラジオでもまだ伝えられていないはずだ。その状況を目の前の男は仔細漏らさず言い当てている。。。
「今申し上げた内容は、全て先ほど妻が言った内容です。そして、片桐さん。あなたが『本物』であるかどうか、念には念を入れてテストするように言ったのも妻なのです。」
「もっとも、こんなに力が強いとは聞いてなかったですがね。」背後から先ほどの息子の声がした。
「先ほどは。。。」と片桐が言うのを制し、息子が続ける。
「片桐さん。とおっしゃいましたね。母は、ここ数日何かに取り憑かれたかのように、父の会社が危険なことをしてる。父の命が危ない。と言い続けてるんです。こんなに取り乱した母を見るのは初めてです。しかも、そんな馬鹿げた話以外、一切しゃべらなくなってしまったんです。そして、『あなたが来たらすべてを話さなければ。。。』とうわごとのように繰り返してるんです。」
息子がここまで話し終えたところで、突然黒田の妻が口を開いた。
「片桐さん・・・」
第三話につづく
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by けんづる
背中に当たる冷たい感触の位置から察すると、背後の男の身長は片桐と同じかやや高いくらい。小刻みに震えるような振動が、男がこういった犯行に不慣れなことを推測させる。
男の声が続く。
「あんた。何しに来たんだ?家族との関係は?」
愛車のアバルトから、「宅配でーす。」などと下手な嘘をついてもバレてしまう。ここは素直に依頼内容を説明するのが安全策であろう。
「私は、いわゆる何でも屋です。今日はここ、黒田様のご依頼で台所の温水器の不調を調べに来たんです。」
「残念だが、ここの主人は今外出中でな。改めて出直してもらおうか。」男の声は震えている。
やはり、この男、不慣れなようだ。
片桐は深呼吸し、何か抗戦できる道具はないか?と視線を泳がせた。
その時、温水器の陰で何かが動いた。そして。。。
「ぎゃっ!!」
ゴキブリの姿を認めた片桐は状況も忘れて思わず叫んでしまった。
背後の男はその声に驚いたらしく、一歩後ずさりした。
「今だ!」
片桐は素早く体を反転させ、背後の男の手を叩いた。
男の手からあっけなくナイフが転がり落ちた。
すかさずナイフを蹴りだし、男の手を後ろ手に捻り上げた。
「痛てててて。」男が声を上げるのを制し、男に質問する。
「正直に答えろ。中には何人仲間がいるんだ?」
「・・・・」男は無言である。
捻り上げた手に力を込め、「さあ、言うんだ。さもないと、この右手がしばらく使えなくなるかもな。」
「ま、待て。待ってくれ。一人だ。おれはこの家の者だ。親父に言われて見回りしただけだ。」
「くだらないウソをつくんじゃない!」
片桐はさらに手の力を強めた。
そのとき、背後から別の男の声がした。
「放してやってください。」聞き覚えのある声だ。
その声は。。。
「黒田さん!?」
「はい。。。あなたに温水器の修理を依頼したのは私です。」躊躇いがちに男は答えた。
「なぜ?。。。」片桐が最後まで言い切らぬうちに、黒田は続けた。
「こんな事をしたのか?ですね。まあ、家に上がって話を聞いてください。その前に、そろそろ息子の手を放してやってもらえませんかね?」
片桐は反射的に手を緩め、身構えた。
息子は、痛む右手をさすりながら、無言で父親の顔を恨めしそうに睨みつけている。
「やや。これは失礼。大丈夫かい?」片桐は警戒しながらも息子に声をかけた。
「はい。。。」先ほどの片桐の身のこなしに恐れをなしたのか、小さな声で呟くと家の中に入って行った。
どうやら、二人の男は本当にこの家の親子のようだ。
周囲の様子に警戒を続けながら、片桐も黒田の後に続き、玄関に足を踏み入れた。
玄関のすぐ左手に階段、右手に客間へのドア。なぜか黒田は客間へは案内せず、先に進む。
階段の奥にある廊下を進むと右手にドアが2つ並ぶ。おそらく浴室と便所であろう。
その廊下の突き当たり、ダイニングルームに女性が座っている。
女性は、もちろん先ほどの「テンカウント・リミット」に出てきた女性である。
女性の目はうつろではあるが、何かを伝えたそうに真っ直ぐ片桐に視線を据えている。
黒田は、女性の向かいに片桐を座らせ、自らは女性の隣に座った。
「先ほどは、試すような真似をして大変失礼しました。こちらは、既にお察しかと思いますが、私の家内です。」
片桐は、先を促すように小さく頷いた。
「実は、一週間ほど前から、家内の様子がおかしいのです。しきりに私の会社は危険だ。会社に行かないでくれ。私が命を狙われている。というのです。もちろん最初は、そんな突拍子もない話、信じませんでしたし、『馬鹿なことを言うな。疲れてるんだろう。今日はゆっくり休みなさい。』と言い残し出社しました。」
片桐は、「厄介なことに巻き込まれた?」と内心思いながらも辛抱強く話を聞いている。
「ところが、翌日妻が会社の人間の名前を挙げて、『この人が消される。』というのです。すると確かに妻が名前を挙げた社員が欠勤しているのです。
しかも、家に連絡をとった者が言うには、『夫はいつもどおり出勤しましたよ。何かあったんでしょうか?』と逆に質問を受けた。ということなのです。
さらには、消えた社員と妻とは面識が無いのに妻は彼の氏名をはっきりと口にした。なぜか知っているのです。
気味が悪くなり、その翌日は妻の体調を理由に会社を休んだのです。
そして、妻に『なぜそんなことが分かったんだ?』と問いただしたのですが、妻はそれには答えず、あなたの電話番号を言い、そこに電話をかけて家に呼ぶように懇願した。という訳です。」
片桐は、「でたらめではないか?」と疑ったが、話を続ける黒田の目が真剣そのものであることを否定することはできなかった。
黒田は話を続ける。
「そして、片桐さん。あなたが今日こちらに来るとき、大きな事故に遭遇しませんでしたか?」
片桐は驚いた。
つい先ほどの事故である。事故の状況はテレビでも、ラジオでもまだ伝えられていないはずだ。その状況を目の前の男は仔細漏らさず言い当てている。。。
「今申し上げた内容は、全て先ほど妻が言った内容です。そして、片桐さん。あなたが『本物』であるかどうか、念には念を入れてテストするように言ったのも妻なのです。」
「もっとも、こんなに力が強いとは聞いてなかったですがね。」背後から先ほどの息子の声がした。
「先ほどは。。。」と片桐が言うのを制し、息子が続ける。
「片桐さん。とおっしゃいましたね。母は、ここ数日何かに取り憑かれたかのように、父の会社が危険なことをしてる。父の命が危ない。と言い続けてるんです。こんなに取り乱した母を見るのは初めてです。しかも、そんな馬鹿げた話以外、一切しゃべらなくなってしまったんです。そして、『あなたが来たらすべてを話さなければ。。。』とうわごとのように繰り返してるんです。」
息子がここまで話し終えたところで、突然黒田の妻が口を開いた。
「片桐さん・・・」
第三話につづく
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by けんづる
おぉーっ
by 002Z (2009-11-26 07:56)
第庭!
作者が変わったと判らないスムーズな流れ、石ですなぁ
硬いと聞いて牛舎⇒志茂ネッタを期待したのは内緒
たさ
by たさ (2009-11-26 08:20)
えええーーっ!?Σ( ̄□ ̄;)
…失礼すぎるほど、心の底から驚いた!!
うわー、続きが早く読みたいー!
by 030 ダルコ (2009-11-26 08:25)
え゛ーっ!!
能ある豚はへそを隠す。。。
けんじくん、やるねーぇ!
by 026 Old Y (2009-11-26 11:14)
おー!ぢゅら!!!
すっげぇ~!
THさんかと思った。
って、この前もそう言うてた・・・(^^;)
by あう (2009-11-26 18:38)
ゴクリ(生唾を飲み込む音)……。
片桐、やるやんけ。
by 045 ch-k ってゆーかC★ちさとでーっす(笑) (2009-11-26 23:21)
ぢゅらたんも参加だったのね・・・。
僕もてっきりTHさんだと思った。
ぢゅらたん 一週間に2回も更新
すごいなぁ。
展開が気になる・・・。
by 032_oyasan@まおたん (2009-11-28 01:22)
おもしろい!!!
早くつづきが読みた〜い
by 023-QT (2009-11-28 02:24)
どうなってしまうのか黒田家。
by 074 わからん (2009-11-28 23:24)