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【寄贈本】車のある風景 ランドクルーザー 70 -ヌコ文庫- [図書室]


奈良県から和歌山県へ南下する田舎道を、トヨタ ランドクルーザーディーゼルエンジンをガラガラいわせながら走っていた。
通称ランクルと呼ばれるランドクルーザーの中でも、70系と呼ばれるこの型は1984年のデビューで、最近のなんちゃって4WDや都会派RVと違い、本格的なヘビー系の悪路走破性能を持つ、昨今のトヨタのイメージとは違う、硬派な車である。
直列6気筒 OHC 4.2Lのディーゼルエンジンは、丈夫で長持ちで、既に十数年の歳月を経て、20万km近い走行距離を示しているが、未だに元気よくまわっている。
運転しているのは下田明40歳。助手席には彼の妻が、後席には小学生の娘と息子が乗っている。
カーステレオからは、ハマショーのバラードが流れている。
荷室には、野外用の折りたたみテーブルや椅子、ブルーシートに加え、なぜかアコースティックギターがソフトケースに入れられて積まれていた。
9月のとある土曜日の午後、晴れ渡る秋空に誘われて、明は家族を連れドライブに行こうと家を出た。
特に行き先を決めたわけでもなかったが、川遊びでもするかと前に行ったことのある和歌山を目指して県道を南へ向かう。
明は元々河内の生まれで、細かいことには拘らず、単純な上に勢いで突っ走るタイプであるが、ちょっとお節介で人情深い。エエ男である。
しばらく行くと、トラックがもの凄い勢いで走ってきた。明が退避できそうなところを見つけて、慌てて路肩車を寄せると、トラックはそのままスピードを落とさず走り去って行った。
「何をそんなに急いでんねん。危ないやっちゃなぁ」
呟きながらシフトをローに入れて、再び走り出す。すると、すぐ先で、狭い田舎道の路肩に車が見えた。後席から顔を覗かせていた娘が言う。
「父ちゃん。あの車なんか傾いてんでぇ」
「ほんまやな」
確かに、よく見ると左の車輪が路肩を超えて落ち込んでいる。
明は車を降りて、止まっている車の運転席を覗いた。
50歳半ばくらいだろうか、田舎のおばちゃんが運転席に座っていた。
「おばちゃん、どないしたん?」
「ああ。向こうからでっかいトラックが来てな。慌ててどけたら落ちてもたんよ、ここへ」
「あー、あいつか。なんかめっちゃ急いでたな、しゃーないやっちゃなぁ」
明はもう一度走り去ったトラックの方を振り返ったが、既にトラックは影も形もない。
「おばちゃん、とりあえず降りぃや」
「大丈夫かいなぁ、降りても。えらい傾いてるんやけど」
言われてみると、左側の路肩は、そのまま斜面になって数メートル下の川まで続いており、左側は両輪とも空中に浮いている。ヘタをすると河原まで転落しかねない。
「確かにな。でもまぁ、とりあえず降りるくらいは大丈夫やろ。オレがドア開けて押さえとくんで、そーっと降りて」
左に傾いているので、やたらと重くなったドアを開いて押し上げながら、明は言う。
おばちゃんは恐る恐る、這い上がるように運転席から外に出た。
「はー。寿命縮むわ、ほんまに」
「ははは。まぁ、もう大丈夫やで」
みんなで顔を見合わせて、ほっと一息つく。
「車、引っ張ってあげたら」
妻が言う。
「そうやな。よっしゃ。ほなおばちゃん、オレのランクルで引き上げたるわ。でも、その前に当て木でもせんと、車輪が浮いてたら、転がり落ちたら洒落にならんな。ちょっと待っときや、おばちゃん」
そういって明は、当て木の材料になりそうな木材を探しに、道路の反対側にある茂みに分け入って行った。
子供達も嬉しそうに後を追う。
家族総出で拾い集めてきた木材で、落ちた車の左側の車輪を支える足場を作りが始まった。
9月とはいえまだまだ残暑は厳しく、外で力仕事をしていると、あっという間に汗だくになる。
一人で足場を築くのはなかなか重労働である。
そこへ、車の止まる音がして、男が路肩をから顔を覗かせた。
レイバンのサングラスを取ると、明よりはずっと若そうなイケメンが、爽やかな笑顔を見せて声をかける。
「あのー、よかったら手伝いましょうか・・・」
明が振り返ると、路肩に赤いアルファ147が止まっている。アルファとイケメンを交互に見て、
「おう。悪いなぁ。ほなちょっと頼むわ。後輪の方へこれカマしてくれるかな」
明は片手を挙げながら言う。
そうして、その後時間はかかったが、二人はなんとか足場を築き上げた。
「よっしゃ! できたぞ!」
「できましたね!」
笑顔の青年も額に汗が噴いていた。
「ほな、オレのランクルで牽くんで、兄ちゃんすまんけど運転頼めるかぁ」
「わかりました」
ランドクルーザーに牽引ロープを付け、落ちた車のフックにロープを結ぶ。
青年はその車の運転席に乗り込む。
「ほな牽くでー!」
運転席の窓から後を見ながら明が叫ぶ。
「おっけーでーす!」
ランクルがじわじわと反対車線に動いて、左カーブの狭い道路を横切り、反対側の荒れた山肌へ進む。
普通の車ならとてもそういうわけにはいかず、逆に動けなくなってしまいそうな悪路だが、そこはランクル、高い地上高を生かして難なく斜面を走破する。青年が静かにハンドル切る。
足場を伝って、車はゆっくりと落ちた路肩を上り始めた。
やがて、すっかり引き上げられた車は、元の道路に戻った。
「よーし、やったなー!」
「やりましたね!」
明とイケメンは顔を見合わせて笑う。
「やったー! やったー!」
手伝った子供達も大喜びだ。
「ほんまに世話になったなぁ。おおきにやでぇ」
「かまへんでー。ほな気つけて帰りやー。もう落ちんようになー」
何度も頭を下げながら、おばちゃんは田舎道を去っていった。
「兄ちゃんもすまんかったな。助かったわ、ほんまに」
「いえいえ。役に立って良かったです。じゃ、私はこれで」
「おおきにやで。気つけて行ってや」
サングラスのイケメンを乗せた赤いアルファは、気持ちの良いエキゾーストノートを残して去っていった。
「カッコエエなぁ、あの人。イケメンやったねぇ」
妻が明の顔を見て言う。
「そやな。まぁ、オレよりちょっと男前かな。がははは。しかし、エエ音すんなぁあれ。さぁ、ほなオレらも行くかー」
「行こう、行こう!」
みんなでランクルに乗り込んで走り始める。
和歌山県に入ってしばらく行くと、息子が言った。
「父ちゃん。腹減った・・・」
明は時計を見る。
「おう、もうこんな時間か。おばちゃん救出にちょっと時間かかりすぎてもたなぁ」
「そやねぇ」
妻も笑いながら言う。
「しゃーないな。まぁほな、マリーナでも行って、魚でも食って帰るか。すまんなぁ、せっかく遊びに来たのに遅なってもて」
「まぁエエやん。おばちゃん喜んでたし。エエことしたら気持ちがええわ」
娘が嬉しそうに言う。
「エエこと言うなぁ、お前! さすがオレの子やな。わははは!」
「父ちゃんだけちゃうでー。父ちゃんと母ちゃんの子やでー」
今度は息子が目をくりくりさせながら笑顔で応える。
「そやなー、あははは・・・」
家族の笑い声を乗せて、陽の傾き始めた海岸線に向かうランクルは、その四角い車体をゆらゆらと揺らせながらゆっくりと小さくなって行った。

おわり

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夏休みも終わって新学期。
そんなわけで、夏休みの宿題の作文でーす。(^_^)

なお、この物語はフィクションです。
実在する人物、団体等には一切関係ありません。

関係はありませんが、モデルは居てます。(笑)
ということでこの物語は、家族と自然とメカと音楽をこよなく愛するナイスガイ、A.U.に捧げます。(^_^)/
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022 koge

ししょー、下田明ってwww
そろそろ、ストックねたは尽きてきました?

次の主人公は赤いアルファの池面でしょか。

そこへ、コペンに乗った長身の池面がカラむ?
それとも、一方通行を逆走して出頭するあの人?

このパターンで更にしばらく続けられそうですね。
by 022 koge (2009-09-01 08:03) 

065 じん

ほんまにありそうで
にやついてしまいまひた

皆イケメン揃いです

う麩



by 065 じん (2009-09-01 09:07) 

052  はまちゃん@せみだん

読みながら、これって、、、と思ってたら
やはり想像通りでした。ふふ。。。ふふふふ。

でも、想像した道が酷道R425やったのは秘密です。
よく考えたら、あの道をトラックが走るなんて無理w

次回、147乗りのいけ麺のお話期待してますww
by 052 はまちゃん@せみだん (2009-09-01 09:28) 

015 猫目

アカン、こげぱんに読まれてる。(^^;;)
裏車はエロエロとネタが多いので、いくつかはできるかな。(笑)

じゃ、そのうち仁丹にも登場してもらおか?\(^_^)/

酷道R425やったら、おばちゃんもう崖下で死んでるかも。(^^;;)
位置的に言うと県道30号線やねんけど、30号線にはそんなに狭いとこもないんよね、実際は。(^_^)

by 015 猫目 (2009-09-01 12:55) 

074 わからん

70ランクルディーゼル、ゴリゴリという振動が何とも男前で
今のトヨタとは一線を画くクルマなんだな。
エンジンウインチがついてるのもあって強力。
四駆本来のスパルタンさビンビンだ。
僕は60の丸目バンタイプも好きですね。
日本的アメリカンな匂いの残ったいいクルマだと思う。


by 074 わからん (2009-09-01 22:17) 

074 わからん

アルファはアンサマフラー(古っ)かな、と思ったり?
あれはええ音ー!
by 074 わからん (2009-09-01 22:25) 

032_oyasan@まおたん

それでも 言ってみるw
実はじつわですねっ^^♪

ええやつって できるやつで できる車に乗ってますねぇ♪
by 032_oyasan@まおたん (2009-09-01 23:53) 

023-QT

男前なお話ですねーししょー。
お子ちゃまたちのお言葉に、やられましたーほにょ。

by 023-QT (2009-09-02 05:32) 

A.U.

あっ・・・俺や・・・と言うストーリー。
何とまぁわてどころか、一家纏めて出演。
しかもいつか、どこかで聞いたような話。
(と言うか本人にはいつかどこかで出会ったような光景)

しかも盗撮か盗聴でもしているかのようなリアルな話。
なんとまぁ、読んだ後もほほえみが消えないのでした。
今日一日微笑んで過ごすことが出来そうです。
おおきにです。m(_ _)m

ランドクルーザー70系をこよなく愛する、あうでした。
by A.U. (2009-09-02 08:46) 

015 猫目


わからんたん

ランクル、エエ車です。(^_^)
あうのランクルはまた、バンパーがガムテープで留めてあったりして(笑)、味がある堕酢。


まおたん

麩麩、車は人を選ぶ?\(^_^)/


QTたん

男前やでー、ほんまに。(^_^)
子供らも、ほんまにエエ子らですわ。
まんまあんな感じ。


あう

はは、勝手に登場させてゴメンね。(^^;;)
エエ家族は絵になるねぇ。
書いてて楽しかった。(^_^)/

by 015 猫目 (2009-09-02 12:37) 

A.U.

猫兄さん

お褒めのお言葉嬉しゅう御座ります。m(_ _)m
これからも後ろ指をさされないような生き方を
家族みんなでやっていきたいと思います。

ランクルはホンマええクルマです。
壊れないのが最高です。
ちなみに今は25万キロを超えています。
まだまだ現役!
by A.U. (2009-09-02 12:56) 

061 CSの語り

猫目師匠

今回は、軽トラダンプのお話よかったです!(違

ああ、ランクル。
しえすたは、昔、パジェロショートに乗ってまして、
年間3万km乗って、全然壊れんかったのを思い出します。

最後は20万kmくらいですかねえ。
あの手の車って本当「頑丈」です。
で、どこでも行けちゃう、安心感と安定感。

もう一度乗りたいけど…、家のローンが(ぇ

ってなこって、あうにいちゃんとぜっとんしゃんが登場(笑)
まあ、お二人なら困った人を助けると思います!(^^♪

では、また来週!


by 061 CSの語り (2009-09-03 23:23) 

015 猫目

一時大流行やったけどねぇ、クロカンも。
最近はパジェロも見ることがなくなった・・・。

そういえば、マーフィの法則にこんなんがあったな。(^_^)

「四輪駆動車は、普通の車より救出が困難な場所で立ち往生する」
「Four - wheel drive just means getting stuck in more inaccessible places.」

by 015 猫目 (2009-09-04 12:24) 

014けんづる

遅くなりましたが。。。

すげー!!
あうたん。Zん。
いつの話?(違

なんだか、あうたんファミリーとZんが目の前でやり取りしてるみたい!!すごくいい感じで麩ね。


つぎは、まおたんとづるの新旧Kei対決で!
もしくは、
ふゆたまのプレ男とづるのRチュウのロマン酢とか。。。
どれも軽自動車やん。。。
あ。
しえすたんの刑トラ忘れてた。
by 014けんづる (2009-09-04 15:55) 

051 TH

ししょ、お疲れ様です。

いつもコメントありがとうございますって
ここで書くのか?

トヨタも良いけど、日産ファンのTHとしては
サファリかスカイラインあたりで、是非!

ダッツン、もしくは240Zでも可。


いえ、すみません。
できればで、結構です、ハイ。

by 051 TH (2009-09-06 22:42) 

015 猫目

づる
Kei対決ねぇ。(^^;;)
刑虎のが話はオモロそうやな。\(^_^)/

THっちん
日産ね。
Zやとやっぱり432で行きたいね。(^_^)
ハコスカもエエかもやけど。
by 015 猫目 (2009-09-07 19:44) 

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