THノベルズ 「ペンの力」 [図書室]
彼の仕事はいわゆる「トップ屋」だ。しかし、その記事は週刊誌や全国紙を飾ることはない。
しょせん人は、自分が信じたいように記事を読む。彼はその「想像力」をちょっと刺激してやればいいのだ。
あとは、「世間」が勝手に解釈してくれる。
しかし、彼の収入の大部分は「記事にならない原稿」からもたらされる。だから彼はだれも信用しない。
信じる者は馬鹿を見るだけ、それが彼の処世術だ。
政治家、芸能人など彼を蛇蝎のごとく嫌う人間は多い。それこそが彼の記事が「本物」であることを証明している。
植物状態の夫を支える、献身的な妻。それだけ見れば、よくある美談だ。
しかしその妻が、二人三脚で治療に当たっていた医者と関係していれば…
医者と患者の三角関係など、今までの「実績」に比べれば小さな出来事だ。
だが、このところ「大きな」仕事もないし、ちょっとした小遣い稼ぎにはなるだろう。
それに、DVの被害者という女は、かなりの上玉だ。「おまけ」にしたって、おつりがくる。
男は口の端をゆがめると、写真を机に放り出した。
「無償の愛ね…。フン、おもしろくなってきたな…」
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あんな仕掛けが実を結ぶかどうかなど、何の保証もなかった。
だが、彼女は成功した。これ以上ない形で…
誰も彼女を疑うことはなかった、医者に声をかけられるまでは。
どこで気づかれたのだろう…
西日の射す部屋で医者の話を聞いている間、彼女が考えていたのはそれだけだ。
体を許すことなど、今の彼女にとっては何でもなかった。相手が変わっただけのこと…、どうせ「不良品」だ。
*****
…しばらくすると、医者は結婚したいと言い出した。ひょっとして何も気づいていないのだろうか?
「子供はいらない」そんな言葉を信じることは彼女にはできなかった。
もしそうなら、なぜ彼女はあんなことをしなければならなかったのか。
その言葉を信じることは、彼女の行為のすべてを否定することにつながる。
*****
…やはり何も気づいていなかった。何度目かの行為の後、彼女は確信した。
そして、同時にある決心を固めた。
「…もうこれで最後にしてあげる。こんな思いもしなくて済むのね…。」
「あなたは、このまま一生を生きていくの…。一人きりで…。」
「この部屋だけが、あなたのすべて。この機械だけが、あなたのすべて。」
何度も繰り返された、しかし最後の戯れにそのスイッチに手を伸ばしたとき、ドアが開けられた。
反射的に振り向いた彼女の目に飛び込んできたのは、…医者だった。
*****
昨日、初雪が降った。
夕飯の片づけを終えたころ、ベルが鳴った。
ドアを開けると、見知らぬ男が立っていた。ドアの隙間から差し出された名刺には「ジャーナリスト」の肩書き。
男は彼女の全身をなめるように見ると、薄笑いを浮かべながら言った。
「あなたの旦那さんと、恋人の件でお話を伺いたいのですが。」
「…お話しすることは、何もありません。お引き取りください。」
「そんなこと言っていいんですか? まあ、いいでしょう。今日は帰ります。」
意外にも、男は素直に引き下がった。
そして、翌日。
郵便受けには、原稿の束が入った封筒が差し込まれていた。
帰宅し、原稿を読んだ女の顔から、血の気が引いて行った。
その中身は、医者と彼女と、そして夫の三角関係を題材にしたものだ。
仮名となっていたが、読むものが読めば、すぐに彼女のことだとわかるだろう。
事実と想像を巧みに織り交ぜたその原稿は、扇情的で悪意に満ちたものだった。
この記事が発表されれば、どんなことが起きるか火を見るよりも明らかだ。
原稿には手書きのメモが添えられていた。
「ご興味がありましたら、昨日お渡しした名刺までご連絡ください。」
ふらふらと立ち上がると、ゴミ箱から名刺を取り出す。
震える手で電話番号をプッシュすると、すぐに男が出た。
「はい…、ああ、原稿をお読み頂いたようですね。」
「ええ、じゃあ、明日の19時にお会いしましょう。ご自宅まで伺いますよ。」
男は約束の時間きっかりに姿を見せた。
「…旦那さんに、お線香をあげたいのですが?」
男は慇懃に、しかし、どこか小馬鹿にしたように彼女に言った。
*****
彼女は、深い絶望の中で男の話を聞いていた。
…男の話がついに「条件」に及んだ。
その整った容姿が、その悪意を一層際立たせている。
「条件」については考えておいてくれと言い残し、男は席を立った。
…男を見送るためにドアを開ける。もう悟っていた、「逃げられない」と。
その背を見つめる彼女の中に、再びあの「穴」が大きく口をあけていた。
あの人に伝えなければ…
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はい、こんにちは、THです。
2週間のご無沙汰でした。
どうもこの「ジャーナリスト」登場で、「校長か?」と思われた方も多かったようです。
いやですねぇ、XXさんは「ノンフィクションライター」ですよ。(ニヤリ)
「人は、自分が信じたいように記事を読む。彼はその「想像力」をちょっと刺激してやればいいのだ。
あとは、「世間」が勝手に解釈してくれる。」ちゅうことですね。麩麩麩の麩。
こんな嫌な男、女子大生だけでなく、女子高生にもmtmtの校長なわけないじゃないですか(笑)。
退学処分になってしまいます。
ちょっと広げ過ぎたかな?と心配になっている部分もありますが、ちゃんと閉じる予定です。
そうね…、たぶん…、きっと…。
では。また、さ来週。 7月30日にお会いしましょう。
では、THさん7月30日にお会いしましょう。では(ぇ
いやはや、今回も見入っちゃいました~。
流れるようなストーリー展開。
校長先生じゃないみたいでなによりです。
しかし、この先の展開がまた楽しみですね~。
どうなるんだろう。
ジャーナリストまで出てきた。
世間が勝手に行間読んでくれる?
麩麩麩の屁…、あ、麩ね(なんのこっちゃ
ううん、次回が楽しみー!
でも、再来年の7月30日まで長いな…。
え?再来週?
あ、じゃよかった(なにがやねん
by 061 CSの語り (2009-07-16 23:53)
「あの人」。……。
「正義の味方」の交番のお巡りさんが助けたストーカー被害者のOLさんのお父さん(案外、陰の実力者だったりして)が裏で糸を引いてたり…。
なあんてことは、まさか、ね。
by 045 ch-k てゆーかC★ちさと何です。たぶん、そう。 (2009-07-17 08:41)
なんだか 凄い展開。
小出しのシーン回しで いろいろ想像がかきたてられます。
完結したあと もういちど見返すと新しい気づきがありそうな
今日の内容ですねぇ
by 032_oyasan @ まおたん。 (2009-07-17 12:54)
なんや凄い展開やなぁ・・・。
結末が楽しみ。(^_^)
by 015 (2009-07-17 20:12)
頭の中でジグソーパズルをしているような感じです。
あぁ、THさんのプロットをちらっと見てみたい・・・。
by 035 とくべぇ (2009-07-21 04:35)
この女性、やっぱりとってもしたたかで怖いですねぇ~
次はどうなるんでしょ!もうすぐ続きが読めますね。
楽しみです^^
by 011 まちるだ (2009-07-27 11:20)
にゃんとも、例年に比べなんか頭の中が「忙しモード」になっていて、コメントを書く時間がなかなか取れません。8月になったら時間ができるのか?どうなのか?ということで、このへんで失礼します。
by kk (2009-07-28 17:11)