SSブログ

【寄贈本】天使のたましい -ヌコ文庫- [図書室]


 「困った困った・・・いったいどうすればいいんだ・・・」
 青年は、薄汚いボロアパートの一室で、腕を組んで、檻の中のクマの
ように、うろうろと歩き回っていた。
 実は、彼は天使であった。「あった」というのは、今は天使ではない
からなのである。
 どういうわけかと言うと、昨晩のことである。彼がちょっと油断して、
天使の翼を外している間に、何者かがその翼を盗んでいったのであった。
天使は、翼がないと、ただの人になってしまうのだ。だって、彼も、天
使の翼を与えられるまでは、ただの人だったのだから。
 しかし、今日はクリスマス・イブで、彼には大事な仕事があった。世
界中の子供達に、プレゼントを配る、サンタの手伝いをしなければなら
ないのだ。もう、ずっと昔から、イブの夜には、天使はサンタの手伝い
をすることになっている。人間は、サンタはトナカイの引くソリに乗っ
て来ると思っているらしいのだが、実のところ、ソリを引いているのは、
天使なのである。
 そんなわけで、青年は、今夜そのソリを引かなければならない。とこ
ろが、翼がないことには、ソリを引くどころか、空さえ飛べないのだ。
だが、翼がだれに盗まれたのかは、青年には全く見当もつかないのであ
った。困り果てた青年は、半ばやけになっていた。そこで、とんでもな
いことを口走ってしまったのだ。
 「くそー! このままではどうにもならない! 頼むから、誰か私の
翼を見つけてくれ! 翼を見つけてくれたら、悪魔に魂を売り渡しても
いい!」
 そう言い終えたか終えないうちに、青年の前に黒い煙が立ち上り、男
が現われた。
 「うわ!? な、なんだお前は??」
 驚いた青年が、男に向かって叫ぶと、男はニヤリと笑って言った。
 「決まってるじゃないか。悪魔だよ。お前が今呼び出したんじゃないか」
 「ええ!? あ、悪魔・・・本当に悪魔なのか!?」
 「もちろんだ。正真正銘の悪魔さ」
 悪魔は無気味に笑った。
 「ふむ・・・信じられん。そんなものがこの世にいたなんて。で、何
をしに来たんだ? そうか、私の代わりにソリを牽いてくれるのか?」
「ソリ? 何だそれは? オレがそんなことをするわけがないだろう」
「サンタのソリだよ! これから世界中の子供にプレゼントを届けに行
くんだ。頼むよ、オレの代わりにサンタのソリを牽いてくれ!」
「何でオレがお前の代わりにソリなんざ牽かなきゃならないんだ」
「いいじゃないか。あんた悪魔なんだろ? 似てるじゃないか、サンタ
と。サタンがサンタのソリを牽く。サンタのソリを牽くサタン! うー
む、我ながら素晴らしい語呂合わせだ。な、ぴったりだろ!」
悪魔は寒すぎる駄洒落に鳥肌が立った。
「バカかお前・・・つまらん駄洒落を言ってないで、早く願いを言え」
「願い?」
「そうだよ。願いを叶えて欲しいからオレを呼んだんだろうが!」
悪魔は駄洒落ばかりで一向に話の進まない元天使の青年に、いい加減い
らついて叫んだ。
「そうか、願いを叶えてもらえばいいのか! しかし・・・本当に悪魔
なのか? 何か証拠を見せてみろ」
 「なに? 疑い深いヤツだな。だから言ってるだろう、そんなのは簡
単さ、願いを言ってみろ。すぐにかなえてやる」
 「本当か!? どんな願いでもか!?」
 元天使の青年は、目を輝かせた。
 「もちろんだ。悪魔にできないことはない。ただし、願いがかなった
ら、お前の魂を頂戴するぜ」
 「わかった。今日、子供達にプレゼントを配り終えたら、お前の好き
にすればいい」
 「OKだ。契約は成立だな。さぁ、早く願いを言え。オレも忙しいん
だよ、ノルマもあるしな」
「へー、悪魔にもノルマがあるのか。じゃぁカルマもあるのか?」
「・・・」
悪魔の顔が歪んだ。
 「わかったよ、何もそんな顔しなくもいいじゃないか。冗談の通じな
いヤツだなぁ。なかなかいい洒落だと思ったのにな。ユーモアのセンス
がないやつだな。そんなことじゃ人に嫌われるぞ。コミュニケーション
の基本じゃないか、ユーモアは。まぁいいや、よし、翼だよ。私の翼を
探してくれ。今すぐ翼が欲しいんだ」
 青年は、悪魔に願いを言った。
 「簡単なことだ、では、約束を忘れるなよ」
 そう言うなり、悪魔はまた来たときと同じ様に、黒い煙と共に消えう
せた。そうして、悪魔の消えた後には、天使の翼があった。
 「おお、私の翼だ!」
 翼を背中につけた青年は、すぐにサンタの元へと飛び立った。


 すっかりプレゼントを配り終えた天使は、ウキウキした気持ちで、元
のアパートに帰って来た。そうして、「ふう」と一息ついたとたんに、
またもや黒煙が立ち上り、悪魔が現われた。
 「どうやら約束のときが来たようだな」
 「そうだな。好きにしてくれ」
 「やけに往生際がいいな」
 「私は、もう勤めを終えた。それだけで満足だ」
 天使は言った。
 「ふふ、幸せなやつだな。じゃぁ、いただくぜ」
 「ちょっと待った。そういえば、これは契約だよな?」
 「そうだ、俺とお前の契約だ」
 「じゃ、契約書を見せてくれ」
青年のとんでもない言葉に、悪魔はまた泣きそうな顔になった。
 「け、契約書って・・・悪魔みたいな奴だなお前は・・・」
 「嘘だよ、嘘。嘘つきはいつも嘘をつく。覚えておけよ。それにしても、
あんたユーモアはないわ、すぐに騙されるわ、向いてないんじゃないか、
悪魔に? ・・・わかったよ、泣くなよ。冗談だって。ほら、好きにしろ」
 泣き顔の悪魔は、促されて青年の胸に手を置いた。が、すぐに驚いて
手を離した。
 「な、なんだ!? 魂がないじゃないか!?」
 「魂? ああ、そうだったんだ、すっかり忘れてた・・・」
 天使は思い出したように言った。
 「なにがそうだったんだ!?」
 「天使は、神様に翼をもらう時、魂を神様に捧げるんだった」
 「なんだって! くそ! なんてこった! それならそうと最初に言
えよ!」
 「すまないことをした」
 「すまないじゃすまないんだ!」
 「つまらんぞ、その洒落・・・」
 「しゃ、洒落じゃない! 俺だって、年末までにノルマってもんがあ
るんだからな! お前のせいでノルマが達成できなかったら、大王様に
なんと言い訳すればよいやら・・・」
 悪魔は泣きそうな顔になった。それを見た天使は、ちょっとだけ悪魔
が可哀想になって、言った。
 「まぁそう落ち込むなよ。ノルマは達成できなくても、カルマは・・・」
悪魔の泣き顔がさらに情けなくなった。
 「わかったよ、そんな顔するなって、冗談だって・・・そうだ、ちょっ
と違うけど、これをあんたにあげよう」
 「・・・?」
 天使は、丸い石のようなものを取り出した。
 「なんだこれは?」
 「これを持っていると、幸せになれるんだよ。これで、きっとあんた
にもいいことがあるさ」
 そう言って、天使は、悪魔にその丸い石のようなものを渡した。
 「いいことって・・・なんなんだこれは、一体・・・」
 悪魔は困ったように天使を見た。
 「だから、それを持ってると幸せがくるんだ。そういう言い伝えがある
『玉石』というものさ。魂の代わりにこれをもらってくれ。だって、よく
似てるだろ・・・」
 天使はにっこり笑った。
 悪魔は手にした石を見て呟いた・・・。
 「たまいし・・・」
nice!(0)  コメント(13)  トラックバック(0) 
共通テーマ:moblog

nice! 0

コメント 13

A.U.

こっ・・・このオチは想像ができんかった・・・

契約のくだりは『仮面ライダー●王』のようでシーンが
フラッシュバックしてきました。『お前の望みを言え。何でも
叶えてやる。条件はタダひとつ。お前の時間を頂く。』てな
具合で。

こういう悪魔ならどんどん出てきて欲しいですね。
by A.U. (2009-07-07 12:48) 

051 TH

こんばんわ、THです。

今週は掲載お休みなので、コメント欄に出没です。

猫師匠、いつもありがとうございます。
楽しみにしています。

うーん、こういう話はかけないなあ…
もっと精進します、
by 051 TH (2009-07-07 23:04) 

045 ch-k てゆーかC★ちさとでーす


悪魔は天使からもらった大事な『たまいし』をうっかり沼に落としてしまいました。

沼のほとりで途方にくれていると、沼の底から神様が現れて悪魔にたずねました。

「おまえさんが落としたってー『たまいし』ってのは、こっちの金の『たまいし』かえ? それともこっちの銀の『たまいし』かえ?」

by 045 ch-k てゆーかC★ちさとでーす (2009-07-08 09:42) 

つな

ははは…(^^;

たまいし
by つな (2009-07-08 22:10) 

061 CSの語り

いやはや、猫目師匠…、ツッコミどころ満載!

天使と悪魔って(笑)
羽が取られちゃった?麩麩麩。
シカじゃなくて、天使がサンタさんの手伝い(爆)

え?シカじゃなくて、トナカイ?
あちゃ、間違えちゃったじゃないの(ぇ

といいますか、たまいしって普通持ってねー!(*^^)v

会社で見てニヤニヤさせていただきましたが、
周りから気持ち悪がられているのに気づき、
「何に笑っていたの?」と聞かれ、
「あ、天使と悪魔のやりとり」と普通に答えてしまい、
ドン引きされたのは秘密です。

あと…、あー!ちさとんしゃん沼に物落とすシリーズ!
ちゃっちゃかちゃかちゃかちゃちゃっちゃうー♪
って最後やらないと(なんで笑点?
by 061 CSの語り (2009-07-08 23:17) 

065 じん

オチで爆笑しました。
たまいしwww

で、ちさとさん、最高ですね。


by 065 じん (2009-07-09 00:27) 

015 猫目


あう

> こっ・・・このオチは想像ができんかった・・・

オチ・・・と言えるのか?(笑)


THたん

どもども。
連載ご苦労様です。(^_^)

> うーん、こういう話はかけないなあ…

全くお互い様・・・ああいう話は書け魔変。(^^;;)


ちさとん

> 「おまえさんが落としたってー『たまいし』ってのは、こっちの金の『たまいし』かえ? それともこっちの銀の『たまいし』かえ?」

アカン、ちさとんの話のがオモロイやんか・・・。(~_~;


つな缶

笑ってもらえて何よりです。(^_^)


しえすた

> いやはや、猫目師匠…、ツッコミどころ満載!

麩麩、そらよかった。
関西漫才風味でお届けしました。\(^_^)/


仁丹

> オチで爆笑しました。
> たまいしwww

猫話はそこしかないので・・・。(^^;;)

by 015 猫目 (2009-07-10 10:04) 

Z

最近、猫目さんの文章は、どんなオチが来るのかばかり考えてしまいます・・・

たまいし・・・

つかおう!

by Z (2009-07-12 15:54) 

015 猫目

ぜっとん
はは、読まれないオチを考えんとね。(^_^)
って、使え間変で、それは。(^^;;)

by 015 猫目 (2009-07-12 19:31) 

026 Old Y

なるほど!!

天使は大雑把で暢気。

悪魔は几帳面で繊細なんですね(笑

それにしても“たまいし”とは。。。。。

ぬれ縁などに敷き詰める玉石は小粒なんですが
大きなたまいしだと歩き難い・・・

そうか、わかった!!
大きなたまいしの上を歩かせてコケル→打ち所が悪い
→旅立たれる→そこで“たましい”を回収するんですね(爆

これだとブラック言喪唖か(顎


by 026 Old Y (2009-07-13 16:18) 

030 ダルコ

読んで笑って今日はじめて声を発しました。
明石家サンタより笑ったので、クリスマスイブにもっかい読みに来ます!!


by 030 ダルコ (2009-07-19 16:50) 

015 猫目

おるでぃ
> 天使は大雑把で暢気。
> 悪魔は几帳面で繊細なんですね(笑

そうそう、O型の天使とA型の悪魔。(ぇ

ダルたん
あんがとねー。
で、クリスマスイブってか・・・まだ遠いけど。(^^;;)

by 015 猫目 (2009-07-19 17:48) 

032_oyasan@まおたん。

あれれ・・・。
この間コメント入れたはずなのに・・・掲載がない。
しょぼーん。

夢で書いちゃったんだろうね。
夢。

天使よ、いい夢みれたね。
悪魔よ、うまくやられたね。
大丈夫、おおめにみてくれるよ。努力は必ず報われる。

おやじぎゃぐも きっと 報われるw
今回もめっちゃおもしろかったよぉ^^
by 032_oyasan@まおたん。 (2009-07-20 00:38) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。