THノベルス【 Intermission 】 [図書室]
立ち止まって、少しはずんだ息を整えた。鏡を取り出し、髪とお化粧をチェックする。
待ち合わせ場所は、もうすぐそこだ。
「うん、完璧。」
鏡をしまうと、大きく深呼吸して一歩踏み出す。吐く息が白く、大きく広がった。今の気持ちみたい。
クリスマスも、お正月も会えなかった。でも、それは彼の仕事を考えるとしょうがない。
そもそも、その仕事のおかげで出会うことができたのだから。
いた。
コートのポケットに両手を突っ込んで、あたりを見回している。うん、中々りりしいぞ。
こっちに気づくと、少し厳しかった表情が笑顔に変わる。
私もとびきりの笑顔でこたえる。
「おまたせ。」
--------------------------------------------------------------------------------
その日は久しぶりの合コンだった。
メンツはまあまあ。だけど、お気に入りのワンピースを着ていくほどでもなかった。
お決まりのアドレス交換と、次のお誘い。うーん、どうしよう。
そんなことを考えていたせいか、その男に気づくのが遅れた。
川沿いの近道。ふだんなら遠回りしても大通りで帰るのに…
土手の真ん中に立つその男は、両手を広げ、笑いながらこっちを見ていた。
「やあ、やっと帰ってきたね。 待ちくたびれちゃったよ。」
「今日の飲み会はどうだった? でも、浮気はよくないなあ。」
声を上げようとしても、からからに乾いた口は動いてくれない。
「どうしたの? …そうか、お父さんが気になるのかな。」
「携帯を貸してよ。僕が遅くなるって、連絡してあげるよ。」
右手には、いつ取り出したのか大きなナイフが光っている。
足が自分のものじゃないみたいに力が抜ける。逃げ出すこともできない。
「ちゃんと話せば、わかってくれるよ。」
「ほら、貸して…」
男は左手を伸ばしながら近づいてくる…
殺される…
「何をしている!」
突然響く大きな声。男が振り向く。
あとはよく覚えていない。家に駆け込み、事情を聴いたお父さんはすぐに110番に通報した。
男は逮捕されたが、警官も怪我をしたと聞いた。 犯人の怪我はひどかったらしく、証言を求められたが、
ただ知っていることを話しただけだ。あんな奴、死ぬまで刑務所にいればいい。
お母さんと話して、お巡りさんのお見舞いに行くことにした。
病室には、どちらかというと控えめな印象の男がいた。
この人が助けてくれたんだ…
差し出した花束を照れたように受け取る彼。なんだかこっちの顔も熱くなってくる。
恥ずかしくなって「また来ます」と、逃げるように出てきてしまった。
変な女だと思われたろうか?
--------------------------------------------------------------------------
映画は面白かったし、食事もまずまず。チョコレートだって喜んでくれた。
独身寮に入っているからお泊まりはできなかった、残念といえば残念。
お母さんの受けは最高、何てったって娘の恩人だもの。
最初は渋い顔していたお父さんだって、彼が大卒だって知ってからはまんざらでもないみたい。
昨日だって、門限ぎりぎりまで引きとめてた。
挙句の果てに「ずっと警官を続けるつもりか?」だって。気が早いよ。
さっき交番の前を通ったときは、(先輩にからかわれてたみたいだけど)小さく手を振ってくれた。
順風満帆、前途洋洋。最近は通勤も楽しみだ。
今度お弁当でも作ってみようか…、嫌がるかな?
冷たい風が、火照った顔に気持ちいい。家まではもう少しだ。
デートしている時くらい仕事を忘れてくれればいいのに…、でも不満といえばそれくらい。
昨日だって、コンビニの前で座り込んでいる高校生を怖い顔で見ていた。
最近続いていたホームレスが襲われる事件の犯人も未成年だって言ってた。
彼が逮捕したらしいけど、怪我がなくて良かった…。
危ないことはしないでほしいな…。でも、お巡りさんだからしょうがないのかな…。
角を曲がったところで、その男に気づいた。
「失礼します、怪しいものじゃありません。少しお話を伺えませんか?」
短く切りそろえた髪形は清潔感がある、コートの着こなしも決まっている。
なかなかいい男だ。差し出しされた名刺にはジャーナリストの肩書き。
「先日のストーカー事件について、ちょっとお話を伺いたいのですが…」
前言撤回。 のぞきこむような目がなんかいやらしい。
「お話しすることは何もありません。もう忘れたいんです、あんな怖いこと。」
通り抜けようとしたら、うまく前に回り込まれた。
「じゃあ、今回のホームレス襲撃事件でもいいです。何か聞いていませんか?」
え?ホームレス襲撃事件?何の関係があるの?
「何も知りません。 大体、何であたしなんですか?」
「これ以上しつこくするようなら、人を呼びます。…失礼します。」
何かあったら連絡くださいと、背中越しに声が聞こえた。
あの事件のおかげで、デートがキャンセルになった。関係なんてそのくらいだ。
…部屋に入って、ベッドにかばんを放り出す。せっかくのいい気分が台無しだ。
うん、後で彼に言いつけちゃおう。ひょっとしたら、明日は家まで送ってくれるかもしれない。一石二鳥だ。
少し気分が良くなった。さあ、お風呂に入って彼にメールだ。
====================================
こんにちは、THです。
1週間のご無沙汰でした。
先週「一週お休み」と連絡したのに、アップされてるじゃん!
でも、ほら「Intermission」ですから…(突っ込むところです)
ええ、すみません気まぐれで。>校長代理すみません。
うそつきはいつも嘘をつきます。
でも、内容から考えて、今回までを一区切りにしたほうがいいと判断しました。
次回以降は本当に隔週連載となりますので、よろしくお願いします。
これは本当です。本人が言うんですから、間違いありません。
今回Intermissionなので、あとがきも長めです。隔週連載に向け、忘れられないように必死です。
kkさん
この展開ではまだまだ半落ちが続きますね。最終的に「おもしろかった」と言っていただけるよう頑張ります。
辛口のコメント、これからもよろしくです。
あ、そうそう「西日」の件。全く意識していませんでした。ありがとうございます。
正直、そのような区別が自分の中に存在していませんでした。勉強になります。
さて、来週からの隔週連載に伴い、ちょっと思うところを書いてみます。
今回の連載は縁あって表現の場を提供していただいたわけですが、
最初は「こんな文章読んでもらえるかな?」「そこまでのレベルになっていないんじゃないか?」と自問自答の日々でした。
でも、そんな中展開を考え、プロットを作り、文章に起こす作業は大変楽しいものでした。
また、書いている時は「私のもの」だった文章が、発表したとたんに「みんなのもの」に変わってしまう怖さと、それ以上に膨らんでいく驚きが新鮮でした。
1~4話はもちろんある意図を持って書いているのですが、自分で考えたストーリーが読んだ人の数だけ増えていくんです。
「無粋な解説」とおっしゃる向きもありますが、全然「無粋」でも何でもないですよ。
大変参考になります。
本の形になってしまえば、残りページで「今このあたり」、とか「もうすぐ結末」とかが分かってしまいますが、
こういう形での発表は、今どこまで進んでいるのかが分からないですよね?だからこそ、わざとぼかした書き方してみたり、
それ(解説)を読んでわざと裏切る書き方に変更したこともあったりなかったり(笑)。
全員のお名前をあげることができませんが、皆さんの「次回を楽しみにしている」というコメント、
本当に励みになります。これからもよろしくお願いします。
ということで、もうちょっと続きます。
待ち合わせ場所は、もうすぐそこだ。
「うん、完璧。」
鏡をしまうと、大きく深呼吸して一歩踏み出す。吐く息が白く、大きく広がった。今の気持ちみたい。
クリスマスも、お正月も会えなかった。でも、それは彼の仕事を考えるとしょうがない。
そもそも、その仕事のおかげで出会うことができたのだから。
いた。
コートのポケットに両手を突っ込んで、あたりを見回している。うん、中々りりしいぞ。
こっちに気づくと、少し厳しかった表情が笑顔に変わる。
私もとびきりの笑顔でこたえる。
「おまたせ。」
--------------------------------------------------------------------------------
その日は久しぶりの合コンだった。
メンツはまあまあ。だけど、お気に入りのワンピースを着ていくほどでもなかった。
お決まりのアドレス交換と、次のお誘い。うーん、どうしよう。
そんなことを考えていたせいか、その男に気づくのが遅れた。
川沿いの近道。ふだんなら遠回りしても大通りで帰るのに…
土手の真ん中に立つその男は、両手を広げ、笑いながらこっちを見ていた。
「やあ、やっと帰ってきたね。 待ちくたびれちゃったよ。」
「今日の飲み会はどうだった? でも、浮気はよくないなあ。」
声を上げようとしても、からからに乾いた口は動いてくれない。
「どうしたの? …そうか、お父さんが気になるのかな。」
「携帯を貸してよ。僕が遅くなるって、連絡してあげるよ。」
右手には、いつ取り出したのか大きなナイフが光っている。
足が自分のものじゃないみたいに力が抜ける。逃げ出すこともできない。
「ちゃんと話せば、わかってくれるよ。」
「ほら、貸して…」
男は左手を伸ばしながら近づいてくる…
殺される…
「何をしている!」
突然響く大きな声。男が振り向く。
あとはよく覚えていない。家に駆け込み、事情を聴いたお父さんはすぐに110番に通報した。
男は逮捕されたが、警官も怪我をしたと聞いた。 犯人の怪我はひどかったらしく、証言を求められたが、
ただ知っていることを話しただけだ。あんな奴、死ぬまで刑務所にいればいい。
お母さんと話して、お巡りさんのお見舞いに行くことにした。
病室には、どちらかというと控えめな印象の男がいた。
この人が助けてくれたんだ…
差し出した花束を照れたように受け取る彼。なんだかこっちの顔も熱くなってくる。
恥ずかしくなって「また来ます」と、逃げるように出てきてしまった。
変な女だと思われたろうか?
--------------------------------------------------------------------------
映画は面白かったし、食事もまずまず。チョコレートだって喜んでくれた。
独身寮に入っているからお泊まりはできなかった、残念といえば残念。
お母さんの受けは最高、何てったって娘の恩人だもの。
最初は渋い顔していたお父さんだって、彼が大卒だって知ってからはまんざらでもないみたい。
昨日だって、門限ぎりぎりまで引きとめてた。
挙句の果てに「ずっと警官を続けるつもりか?」だって。気が早いよ。
さっき交番の前を通ったときは、(先輩にからかわれてたみたいだけど)小さく手を振ってくれた。
順風満帆、前途洋洋。最近は通勤も楽しみだ。
今度お弁当でも作ってみようか…、嫌がるかな?
冷たい風が、火照った顔に気持ちいい。家まではもう少しだ。
デートしている時くらい仕事を忘れてくれればいいのに…、でも不満といえばそれくらい。
昨日だって、コンビニの前で座り込んでいる高校生を怖い顔で見ていた。
最近続いていたホームレスが襲われる事件の犯人も未成年だって言ってた。
彼が逮捕したらしいけど、怪我がなくて良かった…。
危ないことはしないでほしいな…。でも、お巡りさんだからしょうがないのかな…。
角を曲がったところで、その男に気づいた。
「失礼します、怪しいものじゃありません。少しお話を伺えませんか?」
短く切りそろえた髪形は清潔感がある、コートの着こなしも決まっている。
なかなかいい男だ。差し出しされた名刺にはジャーナリストの肩書き。
「先日のストーカー事件について、ちょっとお話を伺いたいのですが…」
前言撤回。 のぞきこむような目がなんかいやらしい。
「お話しすることは何もありません。もう忘れたいんです、あんな怖いこと。」
通り抜けようとしたら、うまく前に回り込まれた。
「じゃあ、今回のホームレス襲撃事件でもいいです。何か聞いていませんか?」
え?ホームレス襲撃事件?何の関係があるの?
「何も知りません。 大体、何であたしなんですか?」
「これ以上しつこくするようなら、人を呼びます。…失礼します。」
何かあったら連絡くださいと、背中越しに声が聞こえた。
あの事件のおかげで、デートがキャンセルになった。関係なんてそのくらいだ。
…部屋に入って、ベッドにかばんを放り出す。せっかくのいい気分が台無しだ。
うん、後で彼に言いつけちゃおう。ひょっとしたら、明日は家まで送ってくれるかもしれない。一石二鳥だ。
少し気分が良くなった。さあ、お風呂に入って彼にメールだ。
====================================
こんにちは、THです。
1週間のご無沙汰でした。
先週「一週お休み」と連絡したのに、アップされてるじゃん!
でも、ほら「Intermission」ですから…(突っ込むところです)
ええ、すみません気まぐれで。>校長代理すみません。
うそつきはいつも嘘をつきます。
でも、内容から考えて、今回までを一区切りにしたほうがいいと判断しました。
次回以降は本当に隔週連載となりますので、よろしくお願いします。
これは本当です。本人が言うんですから、間違いありません。
今回Intermissionなので、あとがきも長めです。隔週連載に向け、忘れられないように必死です。
kkさん
この展開ではまだまだ半落ちが続きますね。最終的に「おもしろかった」と言っていただけるよう頑張ります。
辛口のコメント、これからもよろしくです。
あ、そうそう「西日」の件。全く意識していませんでした。ありがとうございます。
正直、そのような区別が自分の中に存在していませんでした。勉強になります。
さて、来週からの隔週連載に伴い、ちょっと思うところを書いてみます。
今回の連載は縁あって表現の場を提供していただいたわけですが、
最初は「こんな文章読んでもらえるかな?」「そこまでのレベルになっていないんじゃないか?」と自問自答の日々でした。
でも、そんな中展開を考え、プロットを作り、文章に起こす作業は大変楽しいものでした。
また、書いている時は「私のもの」だった文章が、発表したとたんに「みんなのもの」に変わってしまう怖さと、それ以上に膨らんでいく驚きが新鮮でした。
1~4話はもちろんある意図を持って書いているのですが、自分で考えたストーリーが読んだ人の数だけ増えていくんです。
「無粋な解説」とおっしゃる向きもありますが、全然「無粋」でも何でもないですよ。
大変参考になります。
本の形になってしまえば、残りページで「今このあたり」、とか「もうすぐ結末」とかが分かってしまいますが、
こういう形での発表は、今どこまで進んでいるのかが分からないですよね?だからこそ、わざとぼかした書き方してみたり、
それ(解説)を読んでわざと裏切る書き方に変更したこともあったりなかったり(笑)。
全員のお名前をあげることができませんが、皆さんの「次回を楽しみにしている」というコメント、
本当に励みになります。これからもよろしくお願いします。
ということで、もうちょっと続きます。
おー!きたー!KSさん・・・じゃなくってTHさん!!!
このフワフワ感のある話の出だしが、この後に続く物語の
怖い部分への序章かと思うとワクワクするやらドキドキ
するやら。ドキガムネムネです。
こうやってストーリーを組み立てていける人は(学園に登校を
されている方達皆さんですが)本当に凄いと思います。
わてには出来ないことですので。
次回も楽しみにしています。
最近買ったBornシリーズの新しいの(R・ラドラムは既に
随分前に他界しており今は異なる人が書いている・・・)
なんかよりもずっと楽しいです。スーダンで。ほんまですよ。
あの本、捨てようかと思いましたが、腹が立つので最後まで
読んでやるツモリですが・・・
脱線しました。2週間後とは少し寂しいな。
by A.U. (2009-07-02 12:57)
だんだんとストーリーが見えてきた気がします。あくまで、気がするだけですが(笑)
>短く切りそろえた髪形は清潔感がある、コートの着こなしも決
>まっている。
>なかなかいい男だ。差し出しされた名刺にはジャーナリストの
>肩書き。
ひょっとして校長登場!!なんて展開はないか。。。
本人二枚目さんと自負しているが、読者いや生徒からそんな話は出ていないような・・・。
あっ、これ匿名希望でお願いします。
某Old Y。
by 026 0ld Y (2009-07-02 13:13)
THさんへ
はい、まだ半落ちです。
というか、まだまだ納得というか、どういう展開なのか見えてきていません。
というのも、DV被害者の妻→警官→医者→警官に助けられた女性 と、毎回それぞれ別の視点で書かれているから。これをどういう形で収束していくのか。次回も楽しみに待ってます。
Old Yさんへ
「ひょっとして校長登場」 あ、私と同じこと考えてる。
by 056 kk (2009-07-02 17:16)
☆056 kkさん
>「ひょっとして校長登場」 あ、私と同じこと考えてる。
ですよね!!握手しましょう(大爆笑
by 026 Old Y (2009-07-02 22:44)
もうおわかりだと思いますが…、
ひょっとして校長登場!(お約束
完全に後だしじゃんけんですが(笑)
でも、後から出したのに、
負けたような気になるのは気のせい?
え?完全に負けている?
あちゃ、じゃあOld Y さん握手!(ぇ
by 061 CSの語り (2009-07-07 01:42)
すごい 校長をよそうするなんて
ぼくには ぜんぜんおもいいたらなかった。
次の展開予想しつつ 楽しみにまってます
by 032_oyasan @ まおたん。 (2009-07-07 12:57)
☆061 CSの語り さん
>あちゃ、じゃあOld Y さん握手!(ぇ
喜んでって手を差し出す時に“チョキ”出すんですね。
わかります。
だって、CSの「騙り」さんですから (^^)/
by 026 Old Y (2009-07-10 10:19)
☆026 Old Yさん
>喜んでって手を差し出す時に“チョキ”出すんですね。
>わかります。
>だって、CSの「騙り」さんですから (^^)/
麩麩麩、ヤキが回りましたね?おいちゃん。
チョキを出せばいいものを、盆暗キングなんで、
咄嗟に、”グー”を出して、
わてが負けちゃんですよ!(笑)
CSの騙りなんですが、いつもCSが負けちゃうの…。
困る、公僕だもの、私。(笑)
by 061 CSの語り (2009-07-11 15:38)
このあとどうなってしまうのか・・・
予想どおりに展開するのか?
それともどんでん返しがあるのか・・・
目を離せません。。。
by 002Z (2009-07-12 16:30)