《白旗新聞》 シドニーのおもひで 050 ナバホ [校内新聞]
オーストラリアはコーヒーがおいしい。
カフェラテやカプチーノのほかに、ロングブラック、ショートブラックなどオーストラリアやニュージーランド特有のメニューがある。ちなみにこれら2つはエスプレッソの異なるサイズを指している。イタリア系の移民が多いことからイタリアン・コーヒーが主流になったらしい。
わたしが好きなのはフラットホワイトとよばれるエスプレッソとミルクを2対1であわせ、あわ立てたミルクをのせたもの。カフェラテよりもコーヒーの味わいをしっかりと楽しめる。もちろんミルクもホテルの冷蔵庫にはサービスとして無料で入っているぐらいの酪農国家だからとてもおいしい。
そんなおいしいコーヒーの初体験は2002年12月のこと。
当時大学の修士1年生だったわたしは国際学会で発表するためにシドニーへ「出張」した。わたしのいた大学の研究室では当時は海外の学会発表に学生を行かせる慣例はなかったので非常に実の引き締まる思いだった。わたしの研究で順調に成果が出ていたこと、たまたま当時研究室は国から助成金をもらっており予算が潤沢だったこと、そしてわたしが帰国子女だったことなどから幸運にもこのような機会を得ることができた。
出発日、成田で搭乗手続きのためにカウンターにチケットを出し、トランクを計量台の上においたとき、息を呑む気配を感じた。荷物から視線を上げて驚いた。搭乗手続きをしてくれたグランドホステスは高校の同級生だった。
「ひさしぶり」「ここで働いていたんだ」「うん、ナバホは?」「学会発表でシドニーに行くんだ」「そうなんだ。がんばってね」一瞬の出来事ではあったが、思いがけない再会と、ひとりの社会人としてしっかりと働く友人の姿に励まされる形で旅はスタートした。よーし、わたしもがんばらなくっちゃ。
シドニーは夏真っ盛りだった。暑くて、まぶしくて、学会発表を前に緊張していて、常に汗ばんでいたような気がする。はやく発表を終わらせて遊びたいなーと思うものの、なかなかそうはいかないのだった。
実は国際学会というのは研究者や先生方にとってはちょっとした息抜きのイベントでもある。毎日の地道な実験や研究の成果を発表すると同時に、仲間と交流を深めることも大切なことだし、国内や海外各地へ出かける口実にもなる。学会へ参加している時間は、日々ストイックに研究にいそしむ者にとっては、ビジネスマンを対象としたメディアにおける経済や市場動向についてのレポートの合間に読む箸休め的なコラムみたいなものなのかもしれない。
最初の日の晩にはウェルカムパーティーがあった。2日目の晩は「ワインとチーズの夕べ」だったし、3日目にはバンケットがあった。日中は観光地に出かけたり、街中をぶらぶらしたり、オプショナルツアーに参加したり。合間におもしろそうな発表を聴講して、自分も発表する。まさに「遊びの合間に仕事をする」を地で行くようなのりだった。
でも緊張しているわたしには楽しめる余裕なんかなくて、日中は市外に出ることなく学会が開かれている会場をうろうろし、夜のイベントではお酒片手に話しかけられると一生懸命英語で会話をして、終了とともにさっさと引き上げ、部屋に戻れば自分の発表スライドや原稿とにらめっこという毎日だった。今考えると非常にもったいないが、必死だったのだ。
発表当日の朝、緊張がピークに達した状況で会場に着いた。大丈夫。英語はできるんだし、いざとなったらスライドをそのまま読めばいい。これまでの発表を見ていると質問も意地の悪いものは飛んでこなさそう。それに別のテーマで発表するために同じ学会に参加していたわたしの指導教官も会場に現れて、前列に座ってくれた。よかった。
と思っていたところ、呼ばれたので緊張の面持ちでその先生のもとに向かった。
緊張しなくて大丈夫だから、とか声をかけてくれるんだろうか・
「ねぇねぇ、コアラを抱きたいんだけれどどこに行けばいいのかなーシドニーに動物園ってあるの?」
「・・・」
一瞬にして力が抜けた。見ると先生の手元にあるのは学会出席者に配られる英語の論文集ではなくて、日本語で書かれたオーストラリアのガイドブック。
もういいよ。どうにでもなれ。なんだかうまくのせられて論文もがんばって書いて提出してここまできたけど、それに学生部門の大賞狙え、なんて学会初日に言ってたから一生懸命気合いれて、余計に緊張してたのに。
毒気を抜かれるとはこういうことを言うのね。
発表は無事に終わって、質問もなんとか回答したような気がするけれど、直前のそのやりとりばかりが記憶に残っていてあまり覚えてない。
当然、学生部門の大賞なんてもらえなかった。
でもそのあとは十分にシドニーの日々を満喫した。
発表があった4日目の夜はディナークルーズが企画されており、世界中から発表に来ていたほかの学生たちとおしゃべりすることができたし、学会が終わったあとも延泊してから帰国することをあらかじめ計画しておいた。
ひとりになってまずしたのは、シドニー在住の友人に連絡をとることだった。大学の友人が領事館で働いていたので日本を出る前に連絡をとっておき、現地で会う約束をしていたのだ。夕方に彼女が迎えに来てくれて、車で領事さんのお宅に2人で向かった。シドニーのハーバーブリッジを渡った先は高級住宅地で、その高台にある領事さんのお宅に入ってみると、なんと別の高校時代の友人が笑って立っていた。彼女も領事館で働いており、わたしの大学の友人とは同僚だということだった。なんという偶然。夕焼けに染まる空と海を眺めながら思いがけない再会に乾杯し、領事さんや領事館の職員とともにディナーを楽しんだ。結局、わたしも学会のえらい先生方と同様に、もしかしたらそれ以上に旅の初めから終わりまで出会いを楽しんだのだった。
次の日からバスに乗ってボンダイビーチに行ったり、市内観光をしたり、青い空と熱い太陽の下思いっきりはしゃぎまわった。あちこちのカフェでおいしいコーヒーを飲んだし、素敵なレストランにも行った。オーストラリアは肉やシーフード、乳製品もおいしいが、太陽の光をいっぱいに浴びた野菜も非常に美味でおどろいた。
なんといってもハイライトは最後の夜に行ったレストランだろう。
予約してちょっとよそいきの格好をしてドキドキしながらテーブルにつくと、様々な料理と皿ごとにそのメニューに合うグラスワインが運ばれてきた。シェフはアボリジニと生活を共にし、さまざまなハーブの使い方を教わった人とのことだったが、日本食も勉強しているらしく、ゆず胡椒や味噌を使用して調理されたエミューやカンガルーなどが出てきた。
料理もワインも素晴らしくお店を仕切っている女性に、シドニーで最後の晩をここで過ごせて本当によかったと伝えると、その日のメニューにシェフやお店のスタッフ全員のサインをいれ、メッセージを添えて送ってくれた。彼女はシェフの奥さんでお店も彼女にちなんだ名前がつけられていた。
今でもそのメニューは大切に額にいれ、寝室に飾っている。
いつかそのメニューを持ってシドニーをふたたび訪れ、そのお店食事をしたいと思っていたが、閉店してしまったため叶わぬ夢になってしまった。友達は帰国し、わたしは研究の道を進まず社会に出ることを選び、オペラハウスの設計者は昨年亡くなった。でもそのメニューを見るたびに青い空を背景にくっきりとそびえるハーバーブリッジのシルエットや巻貝のようなオペラハウス前でまどろんだひととき、カラフルなバスからわくわくしながらビーチを眺めていた時間、カフェのおねえさんの気さくな笑顔、発表前に最高潮に緊張していた自分、旧友との楽しかったひとときを思い出す。
今度行って、またフラットホワイトが飲めるのはいつのことだろう。
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もうひとつのシドニーの思い出~今から**十年前の記録**ワープDA!!
すごく良い思い出だったんだろうなぁ・・・というのがとても伝わってきます。
カラフルな景色が想像出来て楽しいです。
by Z (2009-07-05 01:16)
気合を抜かれたのは良かったのかな。
良かったんでしょうね、
それでも覚えてない位だったから。
嫌味じゃなくて
先生の大人な愛情ということで納得します。
先生は大人だったんですね。
「タッ!」とか地区ショーとかは言っちゃ亀も飼えませんぜ。
ところでオージーのコーヒーは深煎りなんでしょうか?
牛乳に合うとなると・・飲んでみたいな。
勝手に行けやと言わんでね。
by 074 わからん (2009-07-05 21:18)
思い出は色褪せないのですね。。。
発表までの緊張感と終わった後の開放感、楽しさを感じました。
学園でも多くの方がオーストラリアに行かれているようですが、誰ひとりとして悪い印象を持たれていない!!
私もその中のひとりですが(笑)
また行きたくなりました。
今なら、あのペースにも合いそうなので(爆
by 026 Old Y (2009-07-06 10:26)
いつか学園の修学旅行にいきならおーじーにきまりで!煜きゃぁ
みつりんたんとスキューバして猫さまとつりして降旗さんとコーシー飲む旅如何?
この企画桑名発で行けないかな?(笑)
by けえ (2009-07-06 13:01)
確かにロングとショートはございましたが
フラットホワイト
なんちゅうハイカラなの、聞いたことない(汗
なんて田舎&貧乏暮らしだったからなぁ(笑)
そもそも田舎のNZにはそんなものなかったのかもwww
by Prince (2009-07-06 14:26)
義理の姉がNZにいて、
私自身は新婚旅行でオージーに行き、
オージーはいい思い出でした。
コアラにウ○チされるまでは(笑)
しかも、汚したのはコアラなのに、
なぜかわたしの顔引っ掻くし!(爆)
ああ、コアラ…。今度会ったらシバク!(ぇ
結構ね、コアラ爪鋭いんですよ。
えぇ、ガイドさんドン引きしてましたし。
でも、そんなに傷が顔につかなかった。
あ、面の皮が厚いとか思ったあなた…、正解!
by 061 CSの語り (2009-07-07 01:48)
ナバホん、ほんと一週間以上おくれてごめんね。
学会発表なんて すごーく貴重な経験をされてるんですね。
ものすごい緊張感が伝わりました。
そして おわったあとの開放感も。
いま思うと たのしかったですか? ですよね。
指導教官さんの思いのギャップとってもいいですね。
おもしろい方だ
とっても楽しい新聞でした。ありがとう
by 032_oyasan @ まおたん。 (2009-07-15 12:29)
ものすごく今更な米。
フラットホワイト懐かしいです!
NZでよく飲んでたなあ〜
でもNZからAusってすぐなのに、結局行かずじまいだったんですよね。
この記事読んで、やっぱり行きたい!って思いました。
Princeさま>
少なくともオークランドでは普通のメニューでした、5年くらい前ですが(^^
by 055 むつき (2009-07-18 22:42)