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【寄贈本】随筆 子供の日で大騒動 -ヌコ文庫- [図書室]

これは、猫息子が歩き始めてしばらくの頃、十数年前のとある子供の日の出来事である。
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 5月5日である。子供の日である。『子供の日』と名前がついている
のに、どういうわけか男の子の節句である。しかもひな祭と違って祝日
である。よくどっかの団体が女性蔑視だと騒がないもんだと不思議に思
ってしまったりする。

 まぁ、そんなことはどうでもいい。子供の日なのだ。おまけに世間で
はゴールデンウイークということで、どこもかしこも人だらけである。
しかし、我が家はパパの稼ぎが少ないのと、人の沢山いるところは嫌い
なのが重なって、家でのんびりとしている。
 窓から外を眺めると、家々には誇らしげにこいのぼりがはためいてい
る。我が家は・・・もちろんある。上の娘が保育所で作ってきた50c
mほどのプラスチックの棒に、紙のこいのぼりが3つもついているやつ
が・・・。
 遅い朝食を終えて居間に寝転がっていると、本日の主人公である息子
がそのこいのぼりを振り回しながら近付いてくる。ようやく1歳を少し
過ぎたところで、まるでよっぱらいの足取りで、本人も予期せぬ方向に
進んだりしながら、それでも確実に近付いてくる。
「だーだー」
「バシッバシッ」
「いててて・・・コラッ、危ないからそんなものを振り回すんじゃない」
「フギャー!」
こいのぼりを取り上げると一人前に怒るのである。
「キャハハハ」
「ドスッ」
「ウッ・・・」
そうこうしているうちに娘が馬乗りになって飛んでくる。
「だーだー」
「ぎゃははは」
腹の上で飛び回るは、髪を引っ張りまくるは、よだれと鼻水で服はベト
ベトになるは・・・。
「はは、はは、おい、くすぐったい、やめろ・・・ぐははは・・・」
いつのまにやら動きのとれないのをいいことに、ママがきて脇腹をこい
のぼりの棒でつつき回している。
「ええい! パパはおもちゃじゃない!」


「ひーひー、はぁはぁ・・・ぜーぜー」
「さぁ、兜の前で写真とりましょうよ、せっかくのお祝いなんだから。
ほら、なにしてるの、早く行きましょう」
いいようにおもちゃにされてのたうち回っているパパをしりめに、すっ
くと立ち上がったママが言う。
「何が早く行きましょうだ! 誰のせいで・・・ぶつぶつ・・・」
「何!?」
「え、いや、何でもないけど・・・もごもご・・・」
「さっ、早く!」
「は、はいはい・・・」
やむなくパパは立ち上がって、カメラとビデオを持って兜の飾ってある
部屋に向かう。
 兜である。こいのぼりはないが兜はあるのだ。といってもおじいちゃ
んとおばあちゃんが買ってくれたものなのだが。金メッキがやけに光っ
ている。
「さぁ、おねえちゃんここに座って」
ママがおねえちゃんを兜の前に座らせる。それから当の主人公を隣に座
らせて、自分はさっと身を引く。
「さぁ、撮って!」
「え、そ、そんな急に言われても・・・」
もたもたしている間に主人公はフレームの外に消える。
「何してるの?」
「何って・・・だってフラッシュが充電されないと・・・」
パパは思わず言い訳をする。
「もう一回行くわよ。はい!・・・さあ笑って!」
「え、笑ってって・・・」
「だーだー」
あっというまにフレーム一杯に息子の顔が広がる。カメラが珍しいので、
近付いてくるのだ。
「だ、だめだ・・・」
「もう・・・行くわよ、はい!」
「パシャッ!」
フラッシュが光る。嬉しそうに息子が笑う。
「何で終ってから笑うんだよー」
「まぁいいわ、さあ、今度はビデオよ」
言うのは簡単である。撮る方の身にもなってみろ・・・。
ビデオはまたさらに大変である。なにしろ一瞬芸ではすまないのだ。
「はいはい、こっちむいて・・・」
「だーだー」
あっと言う間に画面が顔で一杯になる。
「だーだー」
何度やっても同じである。撮れるのは息子のアップばかりである。
「さぁ、じゃあケーキ食べましょうか」
進行係はスタッフの苦労をよそに、着々と予定を進めて行く。


「はい、おめでとー!」
「パチパチパチ」
「だーだー」
「あ、あなたはまだ生クリームはだめよ。はい、これ食べなさい」
当の主人公は80円のクリーム無しカップケーキである。
「さ、食べましょう。パパ、早く切って」
「あ、ああ・・・」
「おいしそうねー・・・」
ほくほく顔のママである。子供の日である。男の子の節句である。
 が、我が家ではどうもママがケーキを食べる口実のようである。嬉し
そうに紅茶を入れている。
 それをぼんやりと見ながらケーキを切っている間に、主人公はダシに
されたのに気が付いたのかいきなり反撃に出た。椅子からテーブルには
い上がって、おもむろに右手をケーキに突っ込む!
「ぼすっ!」
「きゃー!」
ママの悲鳴である。子供の日である。男の子の節句である。


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コメント 17

031 11 @

こどもの日は柏も、、、ふごふご
そんなこと言ったら恋も買えませんわね(^_^;)

猫パパの主観の混じりつつどこか冷静な文体が白すぎますの。
それにしても、赤ちゃんかわゆいなぁ。。。

そーいえば最近実家におぃらが赤ちゃんの時の写真が飾られ始めたんだけど、あれはなんなんだろう。
by 031 11 @ (2009-06-10 00:42) 

Z002

朝からゆったりと癒されました。

今度は猫息子さんに会いたいなぁ
by Z002 (2009-06-10 08:07) 

A.U.

このUPの為に昨日は・・・

オチが良いです。(^^)
おとなしく慎ましい奥様の実像が・・・うふふ。
そのうち猫息子さんにも会いたいですね。
一緒に釣りをするなど。

今日は朝から穏やかな気持ちになれました。
何と言ってもまいちゃんが作った鯉のぼりの周辺の
くだりが最高でした。生活感が出てて。(^o^)

あう
by A.U. (2009-06-10 08:41) 

045 ch-k てゆーか(以下略)…。


> あっというまにフレーム一杯に息子の顔が広がる。

そうそう、そーなんですよね(笑)。あと、なかなかコッチを向いてくれなかったりとかね。ウチの娘もそうでした。バシバシたて続けに撮りまくった24枚撮りフィルム1本中に“当たり”が2枚か3枚あればいい方でしたね。でもね、今になって振り返ってみると“ハズレ”ショットの1枚1枚にも微妙な表情の変化がシッカリ写り込んでて、なかなか味があるものなんですよ。

一生に一度しかない初節句、家族の愛情溢れるご様子が伺えて、幸せのおすそ分けをいただいた気分です。ありがとうございました。


>い~れ○ん♪
写真じゃなくて、リアル赤ちゃんプリーズ♪ってことじゃないかな?うん。



by 045 ch-k てゆーか(以下略)…。 (2009-06-10 08:50) 

014けんづる

猫兄さま~!!

すごくあったかい家庭!
けんづるの憧れで麩!

憧れとらんときちんと自分で作らんかい!!
。。。はい。ごもっともで麩。

これからも愛の溢れる家庭を守ってくださいね。
おとーさん♪
by 014けんづる (2009-06-10 09:54) 

015 猫目

いれちん
酒飲みはいつもどうやって酒を飲むか考えてるわけやけど、下戸一家の猫家は、スイーツを食べる機会を探してるわけ堕酢。(^_^)

ぜっとん
猫息子は・・・引きこもりで人見知りなのでなかなかムズ。(^^;;)

あう
ちゃうちゃう。校長代理には先週送ってたんやけど、色々と記事が目白押しなのと、校長先生の挨拶が遅れたから今になったのよん。(^_^)

ちさとん
麩麩、子供ってやっぱりそうなのね。
最近はデジカメなんで、バシバシ撮って、確認でけるんでエエけどねぇ。

づる
これ、実は実際十数年前に書いたもんなんよね。
ま、ちょっと手直ししたくらいでね。

愛も溢れすぎると溺れるらしい。(~_~;


by 015 猫目 (2009-06-10 18:12) 

023-QT

猫ししょー、前回のSF物も好きでしたが、コチラのほのぼの系もよいです。
ch-kさんも書いておられるように、こどもってやること一緒なんだなー、かあいーですね。
Qのとこも変な写真がいっぱいあります。

by 023-QT (2009-06-11 12:09) 

A.U.

息が詰まる、ってですか?
ようやくそのフレーズが《分かる人にしか分からないフレーズ》で
無くなってきましたか?(そこに食いつくのか?そこに?

たまにはひとりで映画を見に行きたくなりますよね・・・って
まだ続けてる・・・

愛の量も大きさもええ加減がいい加減?

それもそうですが、『ちゃうちゃう』が良いですね。(^^)

あう
by A.U. (2009-06-11 12:49) 

015 猫目

Qちゃん

子供は何をやってもかぁいいもんです。
澄ました写真より、オモロイ写真のがエエですよ、想い出になって。(^_^)v


あう

わかってんのはあうだけのような気もするが。(^^;;)
あ、ハタボーはわかるか。\(^_^)/

> 愛の量も大きさもええ加減がいい加減?

そそ。

> それもそうですが、『ちゃうちゃう』が良いですね。(^^)

犬とちゃうでー。(笑)

by 015 猫目 (2009-06-12 00:06) 

032_oyasan

師匠~ぉ^^ ほのぼのでいいですねぇ。

まおたんは独身ですが、
従兄の家に ぼくが撮った写真がたくさんあります。
狙って撮れないから またいいんですっ

ぼすっ ぼこっ、容赦ない攻撃にたいし、
お馬さんや、高いたかぁいぐるぐるメリーゴーランド仕様など
あらゆる技を行使して防御していました。

そんな子どもたちも もう小学生・・・
おにいたん なかなか遊んでもらえなくなりました。
これも成長ですね
by 032_oyasan (2009-06-12 12:52) 

061 CSの語り

猫目師匠

具具ったんしえすた@2回目はほんのり温かい物語

子供の日にちなみ、図書室充実だすね。

しかし、猫目師匠引き出しありますな~。

で、次はどんなんだしまんの?(笑)


by 061 CSの語り (2009-06-12 15:20) 

015 猫目

おやさんどもども。m(__)m
子供はねぇ、3才までにありったけの幸せを親に与えてくれるので、それからはそのもらった幸せを抱いて生きるんだそうです。
つまり・・・可愛いのは3才まで?(笑)

しえすた
麩麩、今度は江戸っ子弁(既に使い方が間違ってる? (^^;;))に挑戦する予定。
ベタベタ関西弁の猫が果たして見よう見まねでべらんめぇ口調が書けるのか?

by 015 猫目 (2009-06-12 17:26) 

044 ichigo

微笑ましぃですなぁ。
小さい子供と戯れるにいたま・・・見たい。リアルで。

ケーキにパンチ。とか、ケーキに顔。とか。
驚かされることも多いですね。


でもあの小さいぷにぷにした赤ちゃんがくれる幸せは
かけがえのないものだと思います。

我が家もそうであるように・・・。


ちょす。
by 044 ichigo (2009-06-13 23:15) 

ke_co_ltd

★けえです
猫目ししょうによるヌコ文庫の出版寄贈は
毎週月曜日!
乞うご期待!
by ke_co_ltd (2009-06-14 00:00) 

ke_co_ltd

★けえです
猫目ししょうによるヌコ文庫の出版寄贈は
毎週火曜日!
乞うご期待!
by ke_co_ltd (2009-06-14 00:01) 

032_oyasan

猫目師匠さん 一週間に2話こうしんされるのですねっ
すごいw


で、こどもは3歳までが かわいいのかぁ。
自分の子どもができることがあったら やぱりそうなのか
検証が必要ですね☆

なにごとも 実践と検証w そして再挑戦♪ なんかPDCAサイクルみたいだけど、そうすると何人おこさま必要だろう?^^
by 032_oyasan (2009-06-14 21:09) 

065 じん(げっかびじん)

ケーキにぼすっ。

そこへままの声。

「あー。やったわね。。。」

だいじょぶだいじょぶ。
もみじみたいなかわいいお手てに
クリームがちょこっと、ケーキがちょこっと、
ついただけ。

たとえお手てがケーキに埋もれても、
これはちょこっと、っと言うの。

そして、幸運だったほうの半分は無事
皆の胃袋におさまり。

クリームをお手てで味わった猫息子たんは、
次はさくらんぼみたいなおくちで、
なんて。。考えてない考えてない。

いやー。目の前で見てるようでした。
猫アニさまの苦笑と
もー、とか言いながら粛々と
お片づけに励む猫アネさま。
それでもケーキがうれしいまいたん。。

次回も期待しています!



by 065 じん(げっかびじん) (2009-06-16 22:25) 

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