【寄贈本】すごい装置-ヌコ文庫- [図書室]
「やった!」
博士が叫んだ。
「ついに完成したぞ! 私の研究生活25年の中で、最高の発明だ!」
博士の手には、ダイヤルと小さな押しボタンスイッチの付いた箱があった。
「へー、そんなに凄いもんなんですか、その箱が?」
助手が、博士の手にある箱を、まじまじと見つめて言った。
「おまえにはわからんかもしれんが、凄いものなんだ...」
博士の名は「阿院殊多院」。自称発明研究家で、助手と二人で、発明
研究に情熱を燃やしている。と言っても、長年連れ添ってきた助手は、
三日前とうとう愛想をつかして出て行ってしまったので、今博士の横に
いるのは、昨日アルバイトで雇ったばかりである。
「いいかね、よく聞くんだ、これは「重力コントロール装置」と言っ
て、例えばだな...えーっと、そうだ...」
博士はそう言いながらテーブルの上にあった電話機に「重力コントロ
ール装置」を縛り付けて、ダイヤルの目盛りを[ 5 ]にセットし、スイ
ッチを押した。
「ちょっとこの電話機を、持ち上げてみたまえ。」
「はあ...おっと、やけに重い電話ですね?」
「あのね君、別に電話機が重いわけじゃなくてだね、この目盛りをみ
たまえ、[ 5 ]にセットしてあるだろう。そうしてこのスイッチを押す
と、この電話機にかかる重力が5倍になるわけだ。だから...例えば
電話機が漬物石の代わりになるわけだ。どうだ、凄いだろう!」
重力コントロールの理論を、一般庶民に馴染みのある漬物石を例えに
説明できた博士は、自分の説明に、いたく満足していた。
「電話機が、漬物石ですか...!?」
しかし、助手は、いっこうに驚いた様子もなかった。
「うむ...」
助手の反応を見て、漬物石の例えは、余りに庶民的すぎたかも知れな
い、と反省した。そこでもう一度気を取りなおして、説明を続けた。
「ちょっと例えがまずかったかもしれんが、それだけではないぞ。」
そう言うと今度は、ダイヤルの目盛りを[ 0 ]にセットした。
「こうしてこのスイッチを押すとだな...」
「パチ!」
何の変化もないので、博士の顔を見た助手に、
「ちょっと私の体を押してみたまえ。」
と博士が言った。
「押せばいいんですか?」
「そうだ、押してみろ。」
「ドン」
と助手は博士の体を押した。頭は軽そうだが、体力には自信がありそ
うな助手が、手加減せずに押したため、博士の体は、滑るようにテーブ
ルに向かって行った。
「うわー!」
「ドシャ、ガラガラ、ドスン!!」
「いててて...なんて力だ。」
博士は腰をさすりながら、テーブルの下からはいだした。
「どうもすいません。 でも、 何でそんなにぶっ飛んで行ったんです
か?」
「うむ、そこだよ君。見たまえ、この目盛りが[ 0 ]になっているだ
ろう、と言う事は私の体は、重さがないのと同じ事になるんだよ。その
結果、私と床の間の摩擦計数μがほぼ0となってだな...」
説明しかけた博士は、異星人の会話を聞いているような助手の顔を見
て、説明を諦めた。
黙り込んでしまった博士の事など少しも気にしていない様子の助手は、
しげしげとコントロール装置を見ていたが、ふと気がついたように言っ
た。
「それはそうと、この目盛りにはマイナスもあるんですね?」
特に深い意味もなく言った言葉に、博士は顔をあげた。
「おお、なかなかいいところに気がついたじゃないか!」
今度こそは、助手の口から「凄いもんですね」と言う言葉が聞けるか
も知れないと期待した博士は、意気込んで説明を始めた。
「今までのはちょっと例えが悪かったかもしれんが、今度は凄いぞ。
なにしろ、この目盛りをマイナスにすると、重力が逆に働くんだ。」
そう言って博士は、ダイヤルを[ -50 ]にセットした。
「解るか?こうしてこのスイッチを押すと...」
意気込んで説明していたために、つい指に力が入ってしまった。
「パチ!」
スイッチを押してしまったのである。
「うわ!しま...」
「バキ!」
博士の言葉が終わらないうちに、ものすごい音がして、博士の姿はな
かった。
何が起こったのか解らない助手が、ふと上を見ると、天井にぽっかり
と大きな穴が開いて、月が鈍い光を放っていた。どうやら博士は、あの
穴から飛び出して行ったらしい。
助手は、思わず呟いた。
「へー、こりゃすごい...」
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※この本は、以下の方の協力により寄贈されました。
以下続刊!!
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Right By 015 猫目
やっぱ化け猫いやいや凄い人ですね!!ヌコ目さんって。
長短・軽重・表裏・学園・未来市に魚屋n?ちごうた魚家バンドと多種歳々?それでもって合間にオフ会ですか。。。
尚且つ趣味は多趣味ときたら壊れた扉、誰かさんも白旗あげ~の、旗も降ろす~のってことですか?(えっ
ところでお仕事は趣味ってことでいいんですよね?(^^;;
続刊楽しみで麩。麩麩麩。るる。るるる。
PS:「ごめんなさいなまやさい」を流行らせろとの第3国のとある組織の構成員から指示があったような気がするが、何処で使えというのだ!
悩む。脅因り(大年寄り)だし、私。
by 026 Old Y (2009-05-29 00:23)
遊ぶ間に仕事をするってこういうことをいうんですね?
猫目師匠(笑)
いやあ、楽しく拝見いたしました。
そして、新聞じゃなく、図書室というひねり…。
ううん、流石猫目師匠だなあ…。
でも、仕事忙しい人のはずなのに、白犬な文章書いている…。
一体どこにそんな時間があるんじゃい!と突っ込みたくなる。
え?お前ごときが生意気だ?
猫目師匠、ごめんなさいなまやさい!
どう?おいちゃん?
どう?KBZ(こぼたん)?
おいちゃん&こぼたん&猫目師匠のトリオが言った
「全然だめ~」
麩麩麩、お後がよろしいヨーデル。
by 061 CSの語り (2009-05-29 02:10)
その箱を売ってください。安くしてね。
あう
by A.U. (2009-05-29 08:29)
そんなヌコ文庫を読めるのは降旗学園図書室だけ!!
はい。
押さない押さない。
静かに読んでね~。
君、司書じゃないでしょ?
って突っ込まれました・・・。
ごめんなさいなまやさい。
これで使い方あってる?
ちょす。
by 044 ichigo (2009-05-29 11:16)
白犬。。。w
猫なのに。。。www
にゃーん。
早く続きが読みたいです。
by 065 じん (2009-05-29 12:35)
うはっ。おもろー。…はっ!
いえ、あの、べ、べつにさぼってるわけじゃ…。
けえちゃんに見つからないうちに帰りますね。
by 045 ch-k (2009-05-29 18:37)
博士は無事なのだろうか?
続きの寄贈を待つ!(「師匠に死角なし」って言葉をまた実感してしまった…)
by つな (2009-05-29 18:52)
まずはけえたん
早速の公開あんがとー!(^_^)/
おるでぃ
喜んでもらえて何より駄酢。
広く浅くがモットーの猫駄酢。
しえすた
ドキュメンタリーは得意じゃないのよ・・・って、みんな凄すぎやし。
あう
麩麩、あうんとこで作る?(^_^)v
いちごん
じゃ、司書代理ってことで。\(^_^)/
仁丹
えー、多少碁会があるかもなので書きますが、ショートショートなのでこれで完結駄酢。(^^;;)
「続刊」なので、「続編」じゃないのよ・・・ゴメンね。m(__)m
ちさとん
はよ次アップしてやー。(笑)
つな缶
えー、仁丹に書いたように、週一くらいで行くつもりやけど、続編じゃないので。
ということで、来週はまた別のお話だよーん。(^_^)
by 猫目 (2009-05-29 19:05)
本家での屋根裏短短を読んだ時から、タダモノではないと思っていたけど(遅)、ホントにすごーい!!
博士を福山雅治、助手を渡辺いっけいで実写化希望~!
あうたん、その箱買ったら、わたしにも-50でスイッチオンさせてね!!(月まで飛んで行きたい)
by 030 ダルコ (2009-05-29 21:19)
猫のだんなさん、間違っていたらすみません。
星新一好きですか?
私は大好きです、小学生のころむさぼるように読んでました。
なんか連想してしまったもので。
とても面白かったです。
今度挑戦しますね。
では
by THです (2009-05-30 14:05)
猫目師匠♪
みじかいのに おもしろぃぃぃ♪
もはや センスですね♪
ばたばたばた (扇子じゃないw)
とっても 笑えました。
マイナスってどうやって 開発したんだろw
アポロ計画に教えてあげたい。
ほんとに アポロって事実なのかなぁ
by 032_oyasan (2009-05-30 16:21)
ダルたん
> 博士を福山雅治、助手を渡辺いっけいで実写化希望~!
どっかで見たよな組み合わせやけど(^^;;)、おもろそうやな。\(^_^)/
タダものではなく、タダの猫駄酢。
THたん
あい、星新一中学生の時からずーっと大ファンで、全部持って真麩。m(__)m
で、挑戦するのね、THたんも。(^_^)
oyasan
読んでくれてあんがとー。
ショートショートはまぁ、ちょっとアイデアがあれば書けるので。
長編書く知識も根性もないので・・・。(^^;;)
by 猫目 (2009-05-31 10:54)
猫兄さま。
おもろいです!!
何やっても凄いです!
愛してます!
THん。も言ってたけど、星新一の香りがします。
次回掲載が楽しみです!!
仕事は置いといてでも執筆お願いします!!麩麩。
by 014けんづる (2009-05-31 16:23)
づる
麩麩、づるも読むのね、星新一。(^_^)
星新一ほどキレはないけどねぇ、流石に。(^^;;)
by 015 猫目 (2009-06-01 15:05)
…面白いです。あ、白犬か。すみません。離れて長いので。
なんというか、情景が目に浮かぶようですね。
ようやく「凄いもんですね」という言葉が助手の口から出たときには、
博士は、はるか彼方に行ってしまっていたのですね。
なんだか、人間のかわいらしさというか、いじらしさが感じられて
とてもいい味が出ているキャラだと思います。
それに対する助手の無愛想さも好きですね。
それにしても「-50」って、重力と反対の加速度が50gですか。
博士、そんな、極端なもん作らんでも…
というか、生きているのかしら。
この話は、これきりかもしれませんが、続編が読みたいです。
by 033 オーヤ (2009-06-02 21:34)
猫目師匠ワールドヨイです、とっても。
夢があって、ちょっと笑えて、博士が飛んでった先から何かおこったりするのかしら?ワクワク。
と思ったら次はまた別物なんですね。
つぎが待ち遠しいです。
by 023-QT (2009-06-06 08:20)