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続 重い槍とまごころの文章(前半) [校長室]


 インターネットというのは、本当に展開が早い。

 いまさら改めて言うことではないが、私がPCやインターネットに関しては〝ド素人〟に近いことは完全と言っていいほどにみんなにはバレているらしく、だから改めて言うが、私はおそらく素人以下だ。きっと、素人のほうが私以上にPCに詳しい。

 素人以下っていうのは、どんなやつでしょう? 答え。こんなやつ。

 ある人に言われた。××の書いているものを読んでいると、××はPCが苦手なのだろうな、と思うとか何とか。大当たり。

 すごいね。私がPC関係は大の苦手だということを文章から見抜くとは。

 しかし私はもっとすごいね。私がPC関係は大の苦手だということを文章に潜めていたのだから。これを難しい言葉で自画自賛、もしくは開き直りと言うが、別の言い方をすると、これが文章に性格が表れる。ということ。

 さりげない話をほんの数行書いただけで前回のキーワードに触れるあたり、実に巧い導入です。これで、今回が前回の〝続編〟ということがわかります。これを正真正銘の自画自賛と言います。

 参考までに、私がどのくらいPC関係に疎いかというと――。

 たとえば〝URL〟という単語は『長目飛耳』の連載が始まる前日に知ったくらいです。2年前のことです。

「ごきぶりの研究者と広報部に記事の掲載を知らせたいんだけど、アレを教えてくれよ」
「アレって何ですか?」
「アレと言ったらアレだ。あるだろう、アレ。変な記号がいっぱい並んでるアドレスみたいなやつで、そこを押すと記事が出てくるやつ。ドメインとか何とか言うんだろう、アレ」

 Yとの会話です。もちろんおかわりでしょうけど。日本語が違ってます。正しくは〝おわかり〟です。もちろんという言葉を書き違えると牛舎に入れられます。

「もしかして、URLのことですか?」
「知らん。そんな難しい言葉を使うな。もっとわかりやすく言え」
「URLはURL以外に説明しようがないんですが……、先方にはURLをお伝えしますと書けば、わかっていただけますよ」
「そーなの?」
「そーです」
「しかしだぞ、もし、先方がその New World Tel とかってのを知らなかったら?」
「研究所で飼育している100万匹のごきぶりが全部逃げ出すようなことがあっても、先方がURLを知らないってことはありません。絶対にご存じのはずです。それに、思いッきり聞き間違えているでしょう? URLです、URL」
「きみ、ちょっとパソコンに詳しいからって、その言い方はとても生意気だぞ。気に入らんな。もういっぺん言いたまえ、ちゃんとメモしとくから。で、このURLってのは何なんだ。ウルグアイかどこかで発明された機能なのか?」

 このとき、Yが細かく説明してくれたような気がしますが、偉ッそうに小難しい単語ばかり並べるので、途中で面倒くさくなった私です。

「前々からものすごく不安だったんですけど、こんなにPCのことを知らない人がオンラインで連載なんか始めていいんでしょーか?」
「きみ、ちょっとパソコンに詳しいからって、その言い方はものすごく生意気だぞ。気に入らんな。パソコンと言えパソコンと。きみは知らないだろうから教えてやるが、正しくはパーソナルコンピューターと言うのだ。PCだなんて言って恰好つけるんじゃない」
「いまどきパソコンと書く人のほうが少ないですよ。というか、たぶんいません」
「残念だが外れだな。ここにいるじゃないか、パソコンと書く人間が」
「だから心配なんですよ」
「おあいにくだな。その私に連載を依頼したのはきみだ。きみは編集者らしく私をフォローしていればいいのだ」
「そーいうことになるんですか?」
「そーいうことになるだろうね。安心しろ、私は何も心配していない」

 という会話があった翌日に、あの連載がスタートしました。

 参考の参考までに書くと、原稿は編集者がチェックした後、二方向に分かれます。そのひとつが校閲さんで、もう一方は制作部です。つまりは校閲さんが五時育毛をチェックしつつ、掲載のデザインとレイアウト作成が同時進行で行われるわけですが、それらの作業が済んだ後、著者にはこーいったデザインで掲載されます、という〝PDF〟が送られてきます。

 そこには――、どこに、とツッコまれたらPDFと応えるしかありませんが、そのPDFには原稿のどこに校閲さんの手が入ったかが一目でわかるように細工されていて、それを見ながら著者は加筆なり修正を施して編集者に送り返す。それで私のお仕事も終了。めでたしめでたし。

 という運びなのですが、そもそもPDFなどというものを知らず、そんなものを送りつけられても、赤線が引かれたり五時育毛を指摘された箇所をどーすれば修正できるのかもわからないので、Yにはゲラをファックスで送るよう命じた私です。

「マジですか?」

 本来ならば、スーダン国境近くのエチオピアの町ですか、と言わなければならないところなのですが、あのときはこのハイブロウなジョークが誕生する前だったので、棒ゲラでいいからファックスで送れと言ったら、Yはもろに〝マジ〟と言いました。エチオピアには、スーダンとの国境近くにマジという町があるのです。マジです


 ちなみに、棒ゲラというのは、レイアウトもデザインも何も決まっていない、行の文字数だけを調整して刷り出しただけの原稿に校閲さんのチェックが入ったものです。原稿が遅いモノ書きにはよく棒ゲラが送られてきます。そーいうモノ書きを一人知っています。

「そんなことやっていると、二度手間三度手間になりますよ。PDFを覚えてもらったほうがよっぽど早いし、楽だと思うんですが」
「違うね、きみ。それは大いに違うぞ。そのDDTだかKGBとかいうやり方で楽ができるのはきみだ。きみは自分が楽をしたいばっかりに、そのたいへんな作業を私に押しつけようとしているだけなのだ。手間をかけるから良質な記事ができるということをきみは見落としているな。いけないね、それじゃ」

 このときは、やはり〝鯉も飼えない〟というジョークは生まれてません。〝池がない〟から鯉も飼えないのです。最近ではメダカも飼えないとかミジンコも飼えないというアレンジ形も使われています。

「仰ることはわかりますけど……」
「わかればよろしい。とっととゲラをファックスしなさい」
「やっぱりやり方をお教えしますよ。簡単ですから」
「断る。迂闊な操作をして私のパソコンが爆発したらどーするんだ。あるいは起爆装置が作動するようにことになったら、きみはどう責任を取るつもりだ。私は解除方法なんて知らんぞ」
「そんなことは絶対にないと思います。どこの世界に起爆装置を搭載したPCがあるんですか」
「くどいな、きみって男は。何があってもパソコンという言い方をしたくないらしい」
「いい機会ですから覚えましょう。覚えたほうがいいですって」
「つくづくくどい男だな、きみってやつは」
「覚えたほうが絶対に××さんのためです」
「よろしい。そこまで言うのなら覚えてやろう。しかし言っとくが、私がそのP&GだかAGFを使いこなせなくて期限内に作業が終わらず、きみが毎週のように終電を逃そうがタクシー帰宅になろうが、最悪は私が口頭で言ったことをきみが残業中のパソコンで打ち込むような事態になっても文句は言うなよ」
「要するに、覚える気がないってことですね」
「ばかを言っちゃいかん。覚えると言ったではないか。ただ、覚えられるかどーかの自信がないだけだ。自慢じゃないが、私はいまだに集英社専用の経費精算ソフトの使い方がわからず、手書きでの精算を認められている唯一のライターなのだ」

 実話です。

 集英社という出版社は、著者全員にエクセルをベースにした経費精算ソフトを送信し、そこに取材費を打ち込んで返信。というやり方をしているのですが、これが従来のエクセルとちょっと違っていて、私は2時間も格闘した挙げ句に打ち間違いを見つけて、修正しようとしたけれどどうすればいいのかわからず、気がつくと精算額が一桁も多くなっていたことがあります。

 私はそれでもよかったのだけど、15万くらいかかった取材費を150万も請求したらたぶん経理の方々に突き返されそうな気がしたので、また一から慎重に打ち直したら今度は3時間もかかってしまい、毎回毎回こんなことをさせるのだったらもう書かない。と担当編集者にブチ切れたことがあります。

 そーしたら、その編集者が経理に頼み込んで、手書きの経費精算を認めてくれました。あまたいるモノ書きの中で、手書きで経費精算をしているのはいまだに私だけだそうです。異端児はどこに行っても異端児です。

 という本当の話をしたところ、ゲラをファックスで送信することに同意したYでした。深夜のタクシー帰宅をしてまで私の作業が終わるのを待ちたくなかったのか、私がブチ切れてもう書かないと言い出すのを懸念したのかは定かではありません。

 というわけで、私はいまだにゲラはファックスで送信してもらっています。こんなことをしているのはやっぱり私一人だけらしいです。異端児はどこへ行っても異端児です。というような本当のことを書くと、私がいつもYをいじめているように思われるから、著者を差し置いてあいつの人気が上がってしまうのかもしれません。

 参考の参考の参考までに言うと、女性誌やファッション誌はすでにほとんどがPDFで編集作業をしているみたいですが、総合週刊誌や月刊誌はいまでもファックスを使ってゲラチェックをしています。私が書くのはギョーカイで〝ザラ紙〟と呼ばれる二色刷のページが主で、グラビアやカラーページと違って色のチェックをする必要がないからです。決して遅れているからでも感覚が古いからでもありません、念のため。

 オンラインで連載するのだから、本来ならYの言うルールに従ってPDFでゲラチェックをするのが筋なのですが、どこで書いてもわがままを貫き通す私です。私はできることしかやらない。できないことはやらない。PC絡みではもっとすごい話がたくさんたくさんあるのですが、それはまたいずれ。自分もPCと書いてるじゃないかとツッコまないよーに。

 というわけで、前回、ちょっとと言いながら文章についてたくさん書いた私ですが、しかし、展開が早い。ここで冒頭の文章に戻ります。

 校長代理から新聞部員を募集するという企画を聞いたのが今月11日。翌12日には告知が出て、17日にはもう20世紀最後の新成人による最初の記事が掲載され、そうかと思うと20日にはAP2の記事。その間にニューヨークから届いたQTのオリジナル〝ちくわぶレシピ〟もアップされています。オンラインみたいな早さです。と思っていたらさらにoyasan署名の新しい記事が。しかけてるね、けえ校長代理。

 ところで、校内新聞の名称を何故〝白旗新聞〟と言うか、ご存じですか?

 白旗と言えば源氏の幟。私を光源氏に引っかけているんですね。嘘です。ある党組織にそーいう名前の新聞があるので、私の名前の音読みに引っかけて白旗としただけです。たぶん。青だったらジャムになってしまいます。

 で、白旗新聞。私も記事は拝読しました。そこで、20世紀最後の新成人の記事を読んでの感想を少し――、少しと言いながらたくさん書くのが私です。

 コメントには〝難解〟というものもあったけど、私には難解じゃなかった。

 むしろ、とても白犬で興味深く読ませてもらいました。もっとはっきり言ってしまえば、視点が凄まじく〝土井スルー〟で、まるでミステリーを読んでいるような興奮さえ覚えたように思います。最初に引き込まれたのは、導入部のこのセンテンス。引用しますよ。

『(筆者は)「新聞部」を通して既存の「新聞」に挑戦しようとしているのである。筆者は「新聞読者」の立場であるが、自身の専門分野に関しては、日本語で「新聞報道」された時点よりもいち早く情報を入手しているように心がけている。むしろ「新聞報道」よりも以前に情報を入手していないと死活問題である』

 私は、新聞に挑戦しようというその心意気がまず気に入った。新聞メディアは情報をストックしているには違いないが、それを報じる時点でタイムラグが出ていたり、首を傾げざるを得ない視点での報道に対して、彼は挑戦したわけだね。とても白犬。

彼の文章が難解だと言われる理由はとても簡単だ。難解なのに簡単とはこれ如何に。

 ひとつは、単純に難しく堅い言葉と表現が多いこと。つまりは論文調だったということだね。二つめ、「」でくくった単語が多いこと。三つめ、全5章に分けた章立ての〝ジョイント〟がちょっと弱いこと。最後、全5章なのに何故か3章が2つあること(笑)。

 ここは文章教室じゃないから細かく言わないし、私だって他人様の文章を添削するほど自惚れてないから、あくまで〝感想〟として書かせてもらうけど、G20の主眼を〝テロ対策〟に置いた視点はお見事と言うしかない。まるでミステリーを読むような感覚で読めた、というのはそういう理由。これで本当に一本〝論文〟が書けるぞ、新成人。

 ただ、さきの金融サミットの真の目的がテロ対策、ひいてはマネーロンダリング対策とするならば、わかる範囲でその根拠をもっと書き込んだほうがいい。想像でもいいさ。冷戦構造が崩壊したいま、世界はどんな構造で対立しているかをだね。サミットに参加した国々が〝どこ〟と戦おうとしているのか――、あえて伏せたのかもしれないけど。

 サミット参加国が共通の〝敵〟を意識して、そのために資金洗浄を封じようとしているのか、それとも、各国がそれぞれ個別に〝テロ対策〟に取り組んでいて、それぞれの敵は違うけれど、共通の認識として資金洗浄を封じようという流れがあったのか。

 これをもっとわかりやすく言うと、キリスト教国にテロをしかけているのはイスラム国家だから、そのイスラム国家にテロ資金が流れないようにG20が開催されたのか、それとも、アメリカの敵と、ロシアの敵と、ヨーロッパ諸国の敵はそれぞれ違うけれど、それぞれが手を焼いているテロ対策のためにあのサミットが開かれたのか、ということだ。

 記事を読むと、私にはどうも後者のように思えるのだけど、そのあたりのことが勉強不足の私にはよくわからなかったのだ。

 それから2章め以降、ロッシーニ作曲の『ウィリアム・テル』や市街地におけるゲリラ戦、日本で起きたサリン事件、ロシア近隣諸国でのMD配置、国際連盟と軍縮会議、チャーチルの失脚について触れた〝段落〟を落として読んでみるといい。極端なことを言えば、というか私はふだんそーいうふうに資料を読むのだけど、この段落はなくてもいいんだ。

 すると、いきなり最終章の「結語」が出てきて戸惑ってしまうんだね。

 これが、章立ての〝ジョイント〟が弱いということ。つまりは〝繋ぎ〟の文章。

 ものすごい偶然としか言いようがないのだけど、新聞記者が書く文章というのは、きわめてそのジョイントに乏しいのです。新聞に挑戦した新成人が、新聞と同じ陥穽にはまっちゃってるんだね。私にはそれも白犬な発見だった。ジョイントをものすごく意識している文章を知っているけれど、それを参考にすると今度は脱線ばかりしてしまうから気をつけよう。

 もうひとつ願望を言えば、新成人は〝新聞報道より先に情報を入手するように心がけている〟と自分の近辺事情を明かしているわけだから、新成人が入手した情報の〝リアリティ〟がもう少し欲しかった。そうすると、これはもっと枠枠した〝読み物〟になったように思うよ。

 私からアドバイスすることがあるとすれば、データにのみ頼っていくと、結局は〝仮説〟に頼ることになる。ということだ。でも、それは論文なんだね。論文に〝感情〟は不要だから、たとえばテロルに対して新成人の感情は出てこない。

 テロをひどいと思うとか、許せないといった感情だ。資金洗浄を羨ましいと思うとか、私だってできるならやりたいといった感情だ。文中に一部不適切な表現があったことをお詫びします。

 しかし、リアリティとはそういうものです。

 オフ会の帰りに新成人は<ヤマダ>を名乗る男性にカツアゲされそうになって、彼はそのオフ会でやまだ。と知り合ったばかりで、集まりはとても楽しかったのに、たまたまとはいえ、カツアゲ男が<ヤマダ>と名乗ったことが許せなかった。と以前書いてくれたんですね。

 この〝許せなかった〟という気持ちが感情であり、リアリティです。

 カツアゲされそうになったことがリアリティなのではなく、その男が<ヤマダ>を名乗ったことで、やまだ。や楽しかったオフ会まで踏みにじられたような気がした。という彼の感情がリアリティを伝えるんですね。

 すると私などは、新成人っていいやつだな、と想像する。彼の心の中をちょっと見せてもらえたような気がするからです。彼が人気者なのは、おそらくそーいう理由。いじり甲斐のあるやつだってことは後から知ったけど。

 ついでにもうひとつ。みんなももう気づいているだろうけど、新成人が人気者なのは、彼は絶対に人を否定しないからです。いままでにくれたコメントもそうだったし、校内新聞を読み返してもらってもそれはすぐにわかります。違和感を抱いている、というような疑問を綴っても、彼は絶対に否定と批判をしない。誰かさんとは大違い。誰だ、私を指さしているのは。

 すると、硬い文章ではあっても、そこに新成人の人柄や個性が出ている。ということがわかる。それは彼の持っている〝優しさ〟を知る手がかりにもなります。文章には性格が出るんだな、やっぱり。うまく前回とのジョイントもできました。めでたしめでたし。

 記念すべき第一回の校内新聞は、テーマがテーマだけにあぁいった書き方になったのだろうと思うけれど、記事のコンセプトをもっと前面に押し出したほうが意図は伝わりやすかったかな。と偉ッそうなことを言ってますが、決してダメ出しをしているわけではありません。念のため。

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