THノベルズ「昔みたい」 [図書室]
S駅を降りて、15分ほど歩く。
表通りから一本入った、オンライン通りにその店はある。
*****
「やあ、いらっしゃい。今年も終わりですね、お世話になりました。」
グラスを磨きながら、マスターが声をかけてくる。
「いや、こちらこそ。もう、みんな来てますか?」
「ええ、皆さん二階に集合しています。」
「わかりました。それじゃ、後ほど。」
*****
二階ではすでに、いい色になった常連客が談笑していた。
小部屋の入り口には「喫煙室」の三文字が見える。
目当ての顔は、紫煙の向こうでグラスを片手に熱く語っているようだ。
つき合わされている男の視線が泳ぎ、視線がぶつかる。
苦笑しつつも喫煙室のドアを開けると、座るより先にグラスが突き出された。
「久しぶりだな、ぜんぜん顔を見せないじゃないか!」
「いやあ、別のところではよく出てるんですけどね。特に最近は出すぎじゃないかっ
て話も…。いや、私のことなんかどうでもいいんですよ。そちらこそどうなんです?」
「何を言っているんだ。来年早々本も出るし、絶好調に決まっているじゃないか!」
「何を言っているんですか、そもそも今年出る予定がずれ込んだんでしょ?みんな楽しみにしているんですから、もうちょっと考えてもらわないと。」
「おや?君も楽しみにしているのか?あれだけ締め切りを守れとなんのと騒いでいたのに。」
「私の話じゃないですよ、こうして忘年会に来ている常連さんのことです。」
「なに、君は楽しみじゃないって言うのか?聞き捨てならんな、そもそも担当といえば「一心同体○○隊」のはずだ。それを、プレッシャーをかけるだけとはどういうこ
とだ。」
「いえ、○○さんにはスーダンで感謝しています。いま担当している別のFさんの遅れなんて、かわいいものと思えるようになりましたから。」
久しぶりというのに、相変わらずの二人だ。
喫煙室を抜け出し、常連さんの輪に入った。
*****
「いやあ、この間は楽しかったねえ…」
「次回も楽しんでいきましょう!」
「いや、その前に一本背負いかまして、押さえ込みに入ったと思ったらいつの間にか帯がほどけてて…」
「麩麩麩、相変わらずで麩ね。」
「で、次の人選なんですが…」
こっちも会話が弾んでいる。あのリレー企画はよっぽど楽しかったらしい。うまくつながるといいのだが…。
そうこうしているうちに、近くのお寺から除夜の鐘が聞こえてきた。
しかしここに集った全員の煩悩を消すには、108つではとても足りないだろう。
マスター、今年もお世話になりました。
「いや、俺は何もしていないよ。そもそもマスターなんて、表に出てはいけないんだ。」
「でも、マスターがいたから、みんなが集まれたんですよ。」
「違うな、まだわかっていないようだ。俺もこの店もついさっきできたわけではない、ずっとここにあったんだ。君たちは自分の意思でこの店に集まったんだ。違うかい?。誰も強制なんかしていないよ、好きに集まって、好きに出て行けばいい。俺もこの店もずっとこのままだ。」
「…。」
「さあ、年も明ける。カウントダウンも始まったようだ。みんなで乾杯しようじゃないか。来年も、もっといい年になるように。」
こんばんは、THです。
もっと早く、別の話を考えていたのですが急遽差し替えました。
アップを遅らせたのも、この話の結末にあわせたものです。
いろいろな人を連想するかもしれませんが、ここに登場する人物はすべてハクション、いえ、フィクションです。
「これ、俺じゃねえか?」と思ったあなた。断言します「誤解です!」
私もネタ切れで、当初のコメント投稿を思い出して書いてみました。
喫茶ポイズンリターンズってことで。
しかし、今年は面白い一年でした。
来年どうなるかは、また来年のお楽しみ。
とりあえず1月7日はお休みをいただく予定です。
そもそも、(楽屋ネタで恐縮ですが)この連載枠って、コメントネタの焼き直しを想定していたものでした。でも思いつきで「無償の…」から始まる自作小説連載に(半
ば強引に)持っていったものでした。
今年一年間、こんなつたない小説を読んでいただいた皆さん、本当にありがとうございました。
そして、この場を提供していただいたけぇちゃん、ありがとうございました。
2010年がここに集った皆さんにとって、今年以上にすばらしい年になりますように。
表通りから一本入った、オンライン通りにその店はある。
*****
「やあ、いらっしゃい。今年も終わりですね、お世話になりました。」
グラスを磨きながら、マスターが声をかけてくる。
「いや、こちらこそ。もう、みんな来てますか?」
「ええ、皆さん二階に集合しています。」
「わかりました。それじゃ、後ほど。」
*****
二階ではすでに、いい色になった常連客が談笑していた。
小部屋の入り口には「喫煙室」の三文字が見える。
目当ての顔は、紫煙の向こうでグラスを片手に熱く語っているようだ。
つき合わされている男の視線が泳ぎ、視線がぶつかる。
苦笑しつつも喫煙室のドアを開けると、座るより先にグラスが突き出された。
「久しぶりだな、ぜんぜん顔を見せないじゃないか!」
「いやあ、別のところではよく出てるんですけどね。特に最近は出すぎじゃないかっ
て話も…。いや、私のことなんかどうでもいいんですよ。そちらこそどうなんです?」
「何を言っているんだ。来年早々本も出るし、絶好調に決まっているじゃないか!」
「何を言っているんですか、そもそも今年出る予定がずれ込んだんでしょ?みんな楽しみにしているんですから、もうちょっと考えてもらわないと。」
「おや?君も楽しみにしているのか?あれだけ締め切りを守れとなんのと騒いでいたのに。」
「私の話じゃないですよ、こうして忘年会に来ている常連さんのことです。」
「なに、君は楽しみじゃないって言うのか?聞き捨てならんな、そもそも担当といえば「一心同体○○隊」のはずだ。それを、プレッシャーをかけるだけとはどういうこ
とだ。」
「いえ、○○さんにはスーダンで感謝しています。いま担当している別のFさんの遅れなんて、かわいいものと思えるようになりましたから。」
久しぶりというのに、相変わらずの二人だ。
喫煙室を抜け出し、常連さんの輪に入った。
*****
「いやあ、この間は楽しかったねえ…」
「次回も楽しんでいきましょう!」
「いや、その前に一本背負いかまして、押さえ込みに入ったと思ったらいつの間にか帯がほどけてて…」
「麩麩麩、相変わらずで麩ね。」
「で、次の人選なんですが…」
こっちも会話が弾んでいる。あのリレー企画はよっぽど楽しかったらしい。うまくつながるといいのだが…。
そうこうしているうちに、近くのお寺から除夜の鐘が聞こえてきた。
しかしここに集った全員の煩悩を消すには、108つではとても足りないだろう。
マスター、今年もお世話になりました。
「いや、俺は何もしていないよ。そもそもマスターなんて、表に出てはいけないんだ。」
「でも、マスターがいたから、みんなが集まれたんですよ。」
「違うな、まだわかっていないようだ。俺もこの店もついさっきできたわけではない、ずっとここにあったんだ。君たちは自分の意思でこの店に集まったんだ。違うかい?。誰も強制なんかしていないよ、好きに集まって、好きに出て行けばいい。俺もこの店もずっとこのままだ。」
「…。」
「さあ、年も明ける。カウントダウンも始まったようだ。みんなで乾杯しようじゃないか。来年も、もっといい年になるように。」
こんばんは、THです。
もっと早く、別の話を考えていたのですが急遽差し替えました。
アップを遅らせたのも、この話の結末にあわせたものです。
いろいろな人を連想するかもしれませんが、ここに登場する人物はすべてハクション、いえ、フィクションです。
「これ、俺じゃねえか?」と思ったあなた。断言します「誤解です!」
私もネタ切れで、当初のコメント投稿を思い出して書いてみました。
喫茶ポイズンリターンズってことで。
しかし、今年は面白い一年でした。
来年どうなるかは、また来年のお楽しみ。
とりあえず1月7日はお休みをいただく予定です。
そもそも、(楽屋ネタで恐縮ですが)この連載枠って、コメントネタの焼き直しを想定していたものでした。でも思いつきで「無償の…」から始まる自作小説連載に(半
ば強引に)持っていったものでした。
今年一年間、こんなつたない小説を読んでいただいた皆さん、本当にありがとうございました。
そして、この場を提供していただいたけぇちゃん、ありがとうございました。
2010年がここに集った皆さんにとって、今年以上にすばらしい年になりますように。
明けましておめでとうございます。
今年も楽しい一年になるでしょう。
そう願っているところです。
by 074 わからん (2010-01-01 01:22)
あけましておめでとうございます。
今年もまたまた楽しませてもらいます。
久しぶりの喫茶ポイズン、相変わらずでいいですね。
by 023-QT (2010-01-01 03:32)
あけましておめでとう誤字増(違
イヤーyear、夏カシス!
原点はここにありって感じです寝!!
全てはここから始まった。。。
新たな喫茶ポイズンの開店は何時なんだろう?
枠枠しながら散歩にでも出かけますか!
by 026 Old Y (2010-01-01 14:24)
喫茶ポイズンと名物マスター。
珈琲の香りと邪魔にならない音量の
ジャズと集まる人々のおしゃべり。
店の中はちょっと薄暗くて、
カウンターで苦くて熱い珈琲を舌にのせた
感覚まで思い出せました。
素敵な小説をありがとう。
by 065 じん (2010-01-05 00:11)