【寄贈本】親殺し -ヌコ文庫- [図書室]
「よし! ついに完成したぞ!」
男は科学者だった。
時間についての研究をしていたが、5年前ある論文がきっかけで、学会を追放された。
その論文というのは、例の「親殺しのパラドクス」に関するものであった。
「親殺しのパラドクス」というのは、仮にあなたがタイムマシンを発明してあなたが生まれる前に戻り、自分の親を殺したと仮定する。すると、親が死んでしまえば、あなたは生まれないわけだから、あなたが生まれなければ、タイムマシンを発明することもないし、自分の親を殺すこともないわけである。
するとあなたの親は死なないから、あなたが生まれる。だが、あなたが生まれると、タイムマシンで過去に戻り、親を殺す。親が死ねばあなたは生まれない・・・。
という訳で、無限ループに陥ってしまう。
これを「親殺しのパラドクス」という。
男の論文は、このパラドクスについては、こういう結果をまねくので、過去に戻って親を殺しても、殺すことはできないというものだった。
だが、当然のように、日本の学会ではこんな論文は受け入れられるはずもなく、学会を追放されてしまった。
そこで男は、自分の論文を証明するために、タイムマシンをつくった。
それが今、完成したのだ。
「フフフ。これで、頭の堅い学者どもの、鼻をあかしてやるぞ・・・」
そう言って男は、ナイフを持って、タイムマシンに乗り込んだ。
「ええっと...今は、2009年だから、俺の年齢34を引いて、1975・・・」
男は、カウンターをセットした。
「これで、俺が生まれる前に戻れるはずだ」
男はスイッチを押した。
「ウイーーーーン」
タイムマシンが作動した。
空間がグニャリと歪んだ気がした。その瞬間、意識がなくなった。
気がつくと、薄暗い部屋に居た。
どうやら日が暮れかけているらしい。階下からTVらしい音が聞こえる。
男は部屋を見回す。間違いない。まだかなり新しいが、造りは男の居た部屋と同じだ。
念のため、壁のカレンダーを確認する。1975年11月だ。
「よし! 間違いない!」
男は忍び足で階段を下り、TVの音がする部屋に向かった。
居間に男が一人座っている。炬燵に入り男の方に背を向けて、テレビを見ている。
ブラウン管の小さな画面が時代を感じさせる。
「あれが親父だな。よし、失敗しないように一気に行かないとな。大丈夫だ。俺の理論は正しい。親父は死なないはずだ・・・」
男はナイフを構えて居間に駆け込み、振り返る間も与えず背中にナイフを突き立てた。
「うっ・・・」
TVを見ていた男は、声を立てる暇もなくテーブルに突っ伏して事切れた。
ナイフの刺さった背中から、ゆっくりと血が流れ落ちていく。
「そんな・・・そんなバカな! 死ぬはずはないんだ! 俺の理論は絶対に間違っていないはずなんだ!」
「それで? 君は未来から来たというわけかい。」
刑事課の取調室で、渋い顔をした刑事がいった。
「そうだ。でも、でも、俺の理論は間違っていないはずなんだ!」
「ふむ。私はね、大学も出ていないしがない刑事なんでね、君のいう難しい理論はよくわからんのだがね、事実ははっきりしている」
「今は1975年の11月だろう!?」
「そうだ、今日は1975年11月24日だ。それは間違いない。そして、君は居間でTVを見ていた男性、榎本純一郎さんをナイフで刺して殺害した」
刑事は、確認するようにゆっくりと言う。
「その通りだ。何も間違っていないはずだ。俺は榎本雅人、死んだのは俺の親父だ。そして、俺が生まれる前に親父を殺せば、俺は生まれないはずだ! どうして、俺がこうしてここに居るのに、親父は死んだんだ!」
刑事はゆっくりとタバコに火をつけて、大きなため息とと共に白い煙を長々と吐き出した。
「ちなみに、君の誕生日はいつかな?」
「1975年12月8日だ」
「なるほど。私の貧弱な脳味噌ではよく理解できないんだが、確かに君はまだ生まれていない。が、君という生命がこの世に誕生したのは、十ヶ月ほど前じゃないのかな。つまり、君のお母さんが妊娠した日だ」
男は、刑事の言葉にしばらく呆然となっていたが、やがて目を輝かせて嬉しそうに叫んだ。
「そうか! やっぱり俺の理論は間違っていなかったんだ! ははは! やっぱり俺は正しかった! 殺す時期を間違えただけだったんだ!」
おわり
------------------------
この物語はフィクションです。
実在する人物、団体等には一切関係ありません。
えー、これまた久しぶりにSFショートショートでーす。
ネタ切れでどうしょうかと思うてたところへリレー企画が始まり、通常連載はしばらくお休みやったんで、なんとかつないでるって感じやけど、ネタが切れて、毎週締め切りに追われるスリルは、どっかの売れっ子作家みたいやなぁ。
\(^_^)/
喜んでる場合やないんやけど・・・。
男は科学者だった。
時間についての研究をしていたが、5年前ある論文がきっかけで、学会を追放された。
その論文というのは、例の「親殺しのパラドクス」に関するものであった。
「親殺しのパラドクス」というのは、仮にあなたがタイムマシンを発明してあなたが生まれる前に戻り、自分の親を殺したと仮定する。すると、親が死んでしまえば、あなたは生まれないわけだから、あなたが生まれなければ、タイムマシンを発明することもないし、自分の親を殺すこともないわけである。
するとあなたの親は死なないから、あなたが生まれる。だが、あなたが生まれると、タイムマシンで過去に戻り、親を殺す。親が死ねばあなたは生まれない・・・。
という訳で、無限ループに陥ってしまう。
これを「親殺しのパラドクス」という。
男の論文は、このパラドクスについては、こういう結果をまねくので、過去に戻って親を殺しても、殺すことはできないというものだった。
だが、当然のように、日本の学会ではこんな論文は受け入れられるはずもなく、学会を追放されてしまった。
そこで男は、自分の論文を証明するために、タイムマシンをつくった。
それが今、完成したのだ。
「フフフ。これで、頭の堅い学者どもの、鼻をあかしてやるぞ・・・」
そう言って男は、ナイフを持って、タイムマシンに乗り込んだ。
「ええっと...今は、2009年だから、俺の年齢34を引いて、1975・・・」
男は、カウンターをセットした。
「これで、俺が生まれる前に戻れるはずだ」
男はスイッチを押した。
「ウイーーーーン」
タイムマシンが作動した。
空間がグニャリと歪んだ気がした。その瞬間、意識がなくなった。
気がつくと、薄暗い部屋に居た。
どうやら日が暮れかけているらしい。階下からTVらしい音が聞こえる。
男は部屋を見回す。間違いない。まだかなり新しいが、造りは男の居た部屋と同じだ。
念のため、壁のカレンダーを確認する。1975年11月だ。
「よし! 間違いない!」
男は忍び足で階段を下り、TVの音がする部屋に向かった。
居間に男が一人座っている。炬燵に入り男の方に背を向けて、テレビを見ている。
ブラウン管の小さな画面が時代を感じさせる。
「あれが親父だな。よし、失敗しないように一気に行かないとな。大丈夫だ。俺の理論は正しい。親父は死なないはずだ・・・」
男はナイフを構えて居間に駆け込み、振り返る間も与えず背中にナイフを突き立てた。
「うっ・・・」
TVを見ていた男は、声を立てる暇もなくテーブルに突っ伏して事切れた。
ナイフの刺さった背中から、ゆっくりと血が流れ落ちていく。
「そんな・・・そんなバカな! 死ぬはずはないんだ! 俺の理論は絶対に間違っていないはずなんだ!」
「それで? 君は未来から来たというわけかい。」
刑事課の取調室で、渋い顔をした刑事がいった。
「そうだ。でも、でも、俺の理論は間違っていないはずなんだ!」
「ふむ。私はね、大学も出ていないしがない刑事なんでね、君のいう難しい理論はよくわからんのだがね、事実ははっきりしている」
「今は1975年の11月だろう!?」
「そうだ、今日は1975年11月24日だ。それは間違いない。そして、君は居間でTVを見ていた男性、榎本純一郎さんをナイフで刺して殺害した」
刑事は、確認するようにゆっくりと言う。
「その通りだ。何も間違っていないはずだ。俺は榎本雅人、死んだのは俺の親父だ。そして、俺が生まれる前に親父を殺せば、俺は生まれないはずだ! どうして、俺がこうしてここに居るのに、親父は死んだんだ!」
刑事はゆっくりとタバコに火をつけて、大きなため息とと共に白い煙を長々と吐き出した。
「ちなみに、君の誕生日はいつかな?」
「1975年12月8日だ」
「なるほど。私の貧弱な脳味噌ではよく理解できないんだが、確かに君はまだ生まれていない。が、君という生命がこの世に誕生したのは、十ヶ月ほど前じゃないのかな。つまり、君のお母さんが妊娠した日だ」
男は、刑事の言葉にしばらく呆然となっていたが、やがて目を輝かせて嬉しそうに叫んだ。
「そうか! やっぱり俺の理論は間違っていなかったんだ! ははは! やっぱり俺は正しかった! 殺す時期を間違えただけだったんだ!」
おわり
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この物語はフィクションです。
実在する人物、団体等には一切関係ありません。
えー、これまた久しぶりにSFショートショートでーす。
ネタ切れでどうしょうかと思うてたところへリレー企画が始まり、通常連載はしばらくお休みやったんで、なんとかつないでるって感じやけど、ネタが切れて、毎週締め切りに追われるスリルは、どっかの売れっ子作家みたいやなぁ。
\(^_^)/
喜んでる場合やないんやけど・・・。
困った人ですな、これは。
しかしタイムマシンは欲しいな。毒の無い事に使いたいですね。
by 074 わからん (2009-12-22 23:17)
こ、この人頭がいいのだかアホなんだか…(怖
タイムマシンといえば、ドラえもん…じゃなくって『バック・トゥ・ザ・フューチャー』1作目は大好きでしたー。
もしも過去に行けたら、昔のわたしに「もっと遊べー遊べー」と悪魔の囁きをしたいですw
by 030 ダルコ (2009-12-23 21:20)
猫は、タイムマシンより何処でもドアが欲しいなぁ。(^_^)
現実にも、勉強できるけど頭の悪いやつっているよね、どこにも。
逆に、勉強できなくても頭のいい人もいっぱい居てる。
バックトゥザフューチャー、面白かったねぇ。
大好きでした。
やっぱり1作目よね。(^_^)/
by 015 猫目 (2009-12-23 22:40)
あはは、おかんころさな・・・
ちなみに仮面ライダー電王もタイムトラベル物でした・・・
あう
by あう (2009-12-24 08:48)
タイムマシンは作れるのに、、、
どこでもドアよりドラちゃんのポケットが欲しい。
by 023-QT (2009-12-24 13:44)
おかんね。(^^;;)
仮面ライダーは、流石にV3ぐらいまでしか見てないなぁ・・・。
ドラえもんポケットがあったら無敵やね。(^_^)
by 015 猫目 (2009-12-25 17:26)
四次元ポケットに一票!!
にしても。
親を殺すという発想が恐ろしす。。。
どこでもドアってあったら便利だけど航空会社や船会社、自動車産業を巻き込んだ大不況になりそうな。。。
と夢のないことを言ってみる。
by 014けんづる (2009-12-26 15:29)
1980年12月8日といえば……。
あれ? なんかちがってたかな? ま、いいや。
ところで、なぜだか越路吹雪さんがうたってはった「ひとはみんなきょう~だい♪」っていう歌のことをチラと思い出しました。タイトルは「オー・パパ」とかいってたかな?
若者が恋人を父親に引き合わせて「このコと結婚したい」といったところ、父親は「そのコはダメだ!」とかなんとか。
じゃあ、ってんで、次に見つけてきた恋人を父親に引き合わせたら、また「このコもダメだ!」
えええっ、ってんで、またまた見つけてきた恋人を父親に引き合わせたら、またまた「このコもダメだ!」
ちっくしょおお、ってんで、またまたまた見つけてきた恋人を父親に引き合わせたら、またまたまた「このコもダメだ!」
この父親、モテモテ男だったということで、ま、うたはお決まりのオチのパターンへとつづいていくわけですが…。
そっちじゃなかったみたいですね(笑)。
by 045 ch-k ってゆーかC★ちさとでーっす! (2009-12-28 12:56)